▽03/07 22:31

「抵抗しなくてよかったの?」
「・・・わかんねぇ」

着衣を整えながら尋ねるとカゲミツは少しの間を置いてから答えた。
相変わらず窓の方をじっと見つめている。
悲しそうな横顔ではあるが、怒りは感じない。
カゲミツの顔をじっと見つめても何も言わない。
そのままお互い何を言う訳でもなく、ただ時間だけが流れていく。



「オミ、昔言ってたよな」
「え?」
「一人でいるのは寂しいだろって」

静寂を破ったカゲミツが口にしたのは、思い出したくもない昔の話だった。
まだ純粋で汚れを知らなかった頃の自分。
カゲミツと友達、いやそれ以上になりたくて言った言葉だ。
なぜ今更そんな話を掘り返されるのか。
何も答えずにいるとカゲミツが話を続けた。

「今ならその意味がわかる気がするんだ」
「お前には仲間がいるだろ?」
「アイツらにはこれ以上迷惑掛けらんねぇ」

きっとお前の仲間は迷惑だなんて思わないだろうけど。
頭に浮かんだ言葉は口に出さずに適当に相槌を打った。
ふと時計に目をやるとここに来て随分時間が経っていた。
普段ならばもうとっくに帰っている時間だ。

「そろそろ帰るよ」

また来るよとはあえて言わない。
振り返ったカゲミツはもう泣いてはいなかった。
ただ寂しそうに笑ってそうか、とだけ呟いた。


その日からカゲミツと奇妙な関係が始まった。
リニットが裏切ってからフィッシュは目の色を変えて探し回っている。
ナイツオブラウンドの活動は中断せざるを得なくなり、持て余した時間をカゲミツの為に使った。
もちろんカゲミツは仕事に復帰しているのでそうそう会えなかったけれど。
時間が経つにつれて寂しそうな顔をすることも少なくなってきていた。
逢瀬と呼べるほど甘くないけど、自分にとって幸せだと思える時間。
正直言えばリニットがこのまま帰って来なければいいと思っていた。
なのに、運命というのは残酷なものだ。
カゲミツが目覚めて一年が経った頃、リニットは再びナイツオブラウンドに戻って来たのだ。
全身に残る暴行の痕には触れずに端的に聞いた。

「君を唆した子はどこに行ったんだい?」

唇をぎゅっと噛み締めて悔しそうな顔をしているが、そんなことはどうでもいい。
ねぇ、と促すとリニットが苦しそうに口を開いた。

「A部隊に連れて行かれたよ・・・」

それは警察に戻されたということで、イコール近いうちにもカゲミツの耳にも入るだろう。
ようやく深い傷も癒えてきたというのに。
そこまで考えたところで、考えることをやめた。

「そう、それじゃあゲーム再開だ」

それだけ告げて自室に戻った。
次にカゲミツに会った時、どんな顔をしているんだろうか。
ぐるぐると回る思考は頭の端に押しやって。
フッと息を吐き出して、テーブルの上に置いていたグラスを飲み干した。

home top

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -