▽06/25 02:10
一人で過ごすワゴン車は、とてつもなく寂しい。
以前バンプアップで二人で飲んでいた時にカゲミツが漏らした言葉だ。
必死に感情を見せまいと唇を噛んでいたが、揺れる瞳は隠せなかった。
俺は気付いてないフリをして、カゲミツの話を聞いてやるしか出来なかった。
キヨタカとタマキが飲みに行った日、彼は翌日になっても帰って来なかった。
仕事は休みだしどう過ごそうと勝手だったが、相手が気になった。
お互い恋人と離れ離れになった者同士だ。
何かあったな、そう思った俺の勘はどうやら当たりらしい。
「おはようございます」
休み明けの出勤にタマキはキヨタカと一緒に来た。
結局自宅には帰らなかったなーとのんびり考えて、カゲミツを見る。
カゲミツもどことなく距離が近付いた二人を感じ取ったようだ。
戸惑った表情を浮かべ、目線を泳がせている。
相棒の次は好きだった奴まで取られてしまったのだ。
徐々に暗くなる表情を見兼ねて声を掛けた。
「カゲミツ、コンビニ行きたいんだけど」
ついてきてと腕を引っ張り無理矢理立たせる。
もうすぐ仕事が始まる時間だけど、どうだってよかった。
「コンビニ行ってきまーす」
ニッコリ笑ってキヨタカを見る。
ダメだなんて言わせない。
早く戻るんだぞという声を聞いて、カゲミツを部屋から連れ出した。
「俺は別に行きたくないんだけど」
「そんな暗い顔して平気な訳ないでしょ?」
あえて核心には触れず話をする。
びくりとカゲミツの肩が強張った。
「タマキ、一昨日の夜から帰ってきてない」
更にカゲミツを追い詰めるようなことを言う。
カゲミツがタマキを好きで居続けるのは、辛過ぎるだろう。
ただでさえ相棒を失ったカゲミツのダメージは大きい。
これ以上傷付くカゲミツを俺は見ていられなかった。
手荒な方法かもしれないがタマキを忘れるには今が丁度いいタイミングなんだ、きっと。
顔を上げたカゲミツは伺うような目で俺を見ている。
きっと言いたいことは分かっているのだろう。
しかし聞きたくないと目で訴えている。
「多分キヨタカ隊長のとこに行ってたんだと思う」
言葉に出した瞬間、カゲミツが苦しそうに眉を寄せた。
自分で認めたくなかったことを突き付けられたのだから仕方ない。
「多分あの二人は、」
そこまで言ったところでカゲミツは手を耳に当て、しゃがみ込んでしまった。
ぶんぶんと首を横に振り、耳を押さえる手は小刻みに震えている。
「カゲミツ、辛いだろうけどこれが現実だ」
耳を押さえる手に自分の手を重ねてゆっくりと耳から外す。
それでもカゲミツは聞きたくないと首を横に振っている。
「カゲミツ」
優しく諭すように呼んでから、震える背中に腕を回す。
「このままだとお前が傷付くだけだ」
「・・・それでもいい」
「それは俺が良くない」
カゲミツはもう十分に傷付いた。
十分過ぎるくらいに、だ。
だったら今度はお前が幸せになる番だと俺は思うんだ。
「お前には幸せになって欲しい」
自分が持てる限りの最大の真剣さで伝える。
カゲミツは気の抜けた表情のまま俺を見ている。
息することも忘れてしまったかのように動かない。
「あわよくば、お前を幸せにするのが俺だといいと思う」
お前を一人にはさせないし悲しませない、傷付けない。
持てる全てを使ってお前を守ってやりたいという俺の気持ちは届いているのだろうか。
じっと目を見つめていると、ぎこちなく目線が泳いだ。
気持ちは届いたようで、その答えを真剣に探してくれている。
「まだいいよ」
混乱しているだろうカゲミツの頭に手を置いてから立ち上がらせた。
カゲミツの手を握って、コンビニへと向かう道を歩き出した。
カゲミツは握り返すこともしないが、振り払うこともしない。
「俺、どうしたらいいんだろうな」
小さく呟いた言葉には返事をしない。
自分の意思でタマキへの思いを断ち切って欲しかった。
「早く帰らないと隊長に怒られるぞ」
手を引っ張るとされるがままだったその手が控え目に握り返された。
ゆっくりでいいからいつか俺の方を向いてくれれば。
そう思って、重なる指にぎゅっと力を込めた。
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