ウィーズリー家の長女様
06
制服に着替えて通路に出ると、三人の男の子に出くわした。ひとりは尖った顎に青白い顔のブロンドの男の子。もう二人はがっちりとして、真ん中にいる青白い男の子を守るようにして立っていた。
「…やあ。これから生き残った男の子を見に、最後尾まで行くところなんだ。君も一緒にどうだい?」
じろじろと私のことを見た青白い男の子は、にやりと笑って気取った風に話しかけてきた。断っても良かったが、この三人組と目的地は同じなので、私は「ご一緒してもよろしいかしら」と言って彼の後に付いて歩いた。
見慣れたコンパートメントに到着すると、私のすぐ後ろを歩いていたがっちりした男の子の片方が、戸を開けた。レディーファーストと言わんばかりに、こちらへ手を差し伸べる青白い男の子が私を中へ案内すると、ロンとハリーが目を真ん丸にさせて私を見た。
「ほんとかい?このコンパートメントにハリー・ポッターがいるって、汽車の中じゃその話でもちきりなんだけど。それじゃ、君なのか?」
青白い男の子が、ハリーに対して強い関心を示していた。きっと彼は、ハリーについての個人的な情報を何処やらから入手してきているのだろう。もしかしたら、フレッドとジョージが言いふらしていたのを偶然耳にしたのかもしれない。
ハリーが「そうだよ」と答える。ロンと私はその遣り取りを黙って見ていた。ハリーは、ちらりとがっちりした二人の男の子に視線を向けていた。それに気付いた青白い男の子は無造作に言った。
「ああ、こいつはクラッブで、こっちがゴイルさ」
顎で左右に立つ彼らを示しながら説明をした。ハリーは、じっとその青白い男の子を見つめている。
「そして、僕がマルフォイだ。ドラコ・マルフォイ」
彼のファミリーネームを聞いた途端にピンと来た。ロンは、クスクスと笑いをごまかすように軽く咳払いをした。それを目敏くドラコが見咎める。
「僕の名がおかしいか? 君が誰だか聞く必要はないね。パパが言ってたよ。ウィーズリー家は赤毛で、そばかすで、育て切れないほどたくさん子どもがいるってね」
ドラコは馬鹿にしたように鼻を鳴らす。私はそんな彼に向かって、努めて笑顔で言った。
「そういうあなたはひとりっ子のようね」
「ああ、僕にきょうだいはいないさ。ただし、勘違いはしないでくれよ。うちは奴と違って裕福だからひとりしか育てられない訳じゃないからね」
私の表情に気を良くしたのか、マルフォイはさらにそう付け加えた。ロンは、今にも飛び掛かりそうな雰囲気を漂わせていたが、私が視線を送ってそれを制した。
「ポッター君、そのうち家柄のいいのとそうでないのとが分かってくるよ。間違ったのとは付き合わないことだね。そのへんは僕が教えてあげよう」
「間違ったのかどうかを見分けるのは自分でもできると思うよ。どうもご親切さま」
マルフォイはハリーに手を差し出して握手を求めたが、ハリーはそれに応じず冷たく言った。マルフォイはその言葉に、真っ赤にはならなかったが、青白い頬にピンク色が差した。
「ポッター君。僕ならもう少し気を付けるがね。もう少し礼儀を心得ないと、君の両親と同じ道をたどることになるぞ」
その言葉に、私達三人がピクリと反応した。そのことに気付かないマルフォイは、更に話を続ける。
「君の両親も、何が自分の身のためになるかを知らなかったようだ。ウィーズリー家やハグリッドみたいな下等な連中と一緒にいると、君も同類になるだろうよ」
ハリーもロンも、途端にパッと立ち上がった。「もういっぺん言ってみろ」とロンは、顔を髪の毛と同じぐらいに赤くさせていて、今にもマルフォイに殴り掛かりそうな勢いだった。
「へえ、僕たちとやるつもりかい?」
「今すぐ出ていかないならね」
せせら笑うマルフォイに、ハリーはきっぱり言った。マルフォイの後ろに控えるクラッブもゴイルも、ロンとハリーよりも体格的にずっと大きかったので果敢に立ち上がった二人を見て、私は少しロンとハリーを見る目が変わった。
「ああ、忘れていた。君も赤毛だが、そこにいる馬鹿な奴とは違って綺麗な色の髪をしてるね」
「それはどうも。お褒めにあずかり光栄です」
ロンとハリーに対する気持ちを改めていた時、マルフォイに声をかけられた。ロンは、我慢ならないと言う風に拳を握ったが、私はくるりとマルフォイの方を向き直って微笑してそう言った。
「君の名はなんだい? 君が良ければ、僕たちのコンパートメントに来ないかい?」
そろりと、ゴイルがロンの側にあった蛙チョコに手を伸ばそうとしている。私は、それを横目に、名乗りもせずにマルフォイの誘いをばっさり断った。マルフォイは、今まで笑っていた私までもが、自分の提案を断るとは思ってもいなかったのだろう。目を白黒させて私を見つめる。
「私の髪を褒めてくれたのは嬉しいけれど、残念ながら、マルフォイとは仲良くできないわ」
「…なぜ?」
マルフォイは、私の言葉に怪訝そうな視線を寄越した。私はそんな彼を見て溜息を吐くと、鬱陶しく左目の前に垂れている前髪を耳に掛けて、いらいらとした口調で言った。
「私、察しの悪い人って嫌いだわ。それに、家族と友人を馬鹿にする人は、もっと嫌いなの。…家柄だけで、その人と付き合うかどうかを決めるなんて、愚かな人のすることだわ」
ちょうどその時、ゴイルが恐ろしい悲鳴を上げた。ロンのスキャバーズが彼のでっぷりとした指に食らい付いていた。ゴイルはスキャバーズにがぶりと噛み付かれている方の腕をぐるんぐるん振り回すと、クラッブとマルフォイは後ずさりをして通路に出る。
ゴイルがやっとの思いでスキャバーズを振り切ると、その三人は足早に消え去った。窓に叩き付けられたスキャバーズは、ぽてっと床の上に落ちている。ロンが尻尾をつかんで引き上げると、驚いたことにスキャバーズは眠っていたのであった。
「あと五分でホグワーツに到着します。荷物は別に学校へ届けますので、車内に置いていってください」
車内にアナウンスが流れた。私が見た時、窓の外はすっかり暗くなっていて、深い紫色の空の下に山や森が溶けていた。汽車は確かに徐々に速度を落としており、ホグワーツが近付いているのをさらに感じさせた。
「さあ、お菓子を片付けましょ」
私の声に頷いた二人は、散らばっていたお菓子を集めて、急いでポケットに詰め込み出した。さあ、ようやく待ちに待ったホグワーツに到着するぞ。私は、ローブのポケットに杖を差し込みながら、そんなことを考えた。
20150829
20160220 加筆←|*|→
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制服に着替えて通路に出ると、三人の男の子に出くわした。ひとりは尖った顎に青白い顔のブロンドの男の子。もう二人はがっちりとして、真ん中にいる青白い男の子を守るようにして立っていた。
「…やあ。これから生き残った男の子を見に、最後尾まで行くところなんだ。君も一緒にどうだい?」
じろじろと私のことを見た青白い男の子は、にやりと笑って気取った風に話しかけてきた。断っても良かったが、この三人組と目的地は同じなので、私は「ご一緒してもよろしいかしら」と言って彼の後に付いて歩いた。
見慣れたコンパートメントに到着すると、私のすぐ後ろを歩いていたがっちりした男の子の片方が、戸を開けた。レディーファーストと言わんばかりに、こちらへ手を差し伸べる青白い男の子が私を中へ案内すると、ロンとハリーが目を真ん丸にさせて私を見た。
「ほんとかい?このコンパートメントにハリー・ポッターがいるって、汽車の中じゃその話でもちきりなんだけど。それじゃ、君なのか?」
青白い男の子が、ハリーに対して強い関心を示していた。きっと彼は、ハリーについての個人的な情報を何処やらから入手してきているのだろう。もしかしたら、フレッドとジョージが言いふらしていたのを偶然耳にしたのかもしれない。
ハリーが「そうだよ」と答える。ロンと私はその遣り取りを黙って見ていた。ハリーは、ちらりとがっちりした二人の男の子に視線を向けていた。それに気付いた青白い男の子は無造作に言った。
「ああ、こいつはクラッブで、こっちがゴイルさ」
顎で左右に立つ彼らを示しながら説明をした。ハリーは、じっとその青白い男の子を見つめている。
「そして、僕がマルフォイだ。ドラコ・マルフォイ」
彼のファミリーネームを聞いた途端にピンと来た。ロンは、クスクスと笑いをごまかすように軽く咳払いをした。それを目敏くドラコが見咎める。
「僕の名がおかしいか? 君が誰だか聞く必要はないね。パパが言ってたよ。ウィーズリー家は赤毛で、そばかすで、育て切れないほどたくさん子どもがいるってね」
ドラコは馬鹿にしたように鼻を鳴らす。私はそんな彼に向かって、努めて笑顔で言った。
「そういうあなたはひとりっ子のようね」
「ああ、僕にきょうだいはいないさ。ただし、勘違いはしないでくれよ。うちは奴と違って裕福だからひとりしか育てられない訳じゃないからね」
私の表情に気を良くしたのか、マルフォイはさらにそう付け加えた。ロンは、今にも飛び掛かりそうな雰囲気を漂わせていたが、私が視線を送ってそれを制した。
「ポッター君、そのうち家柄のいいのとそうでないのとが分かってくるよ。間違ったのとは付き合わないことだね。そのへんは僕が教えてあげよう」
「間違ったのかどうかを見分けるのは自分でもできると思うよ。どうもご親切さま」
マルフォイはハリーに手を差し出して握手を求めたが、ハリーはそれに応じず冷たく言った。マルフォイはその言葉に、真っ赤にはならなかったが、青白い頬にピンク色が差した。
「ポッター君。僕ならもう少し気を付けるがね。もう少し礼儀を心得ないと、君の両親と同じ道をたどることになるぞ」
その言葉に、私達三人がピクリと反応した。そのことに気付かないマルフォイは、更に話を続ける。
「君の両親も、何が自分の身のためになるかを知らなかったようだ。ウィーズリー家やハグリッドみたいな下等な連中と一緒にいると、君も同類になるだろうよ」
ハリーもロンも、途端にパッと立ち上がった。「もういっぺん言ってみろ」とロンは、顔を髪の毛と同じぐらいに赤くさせていて、今にもマルフォイに殴り掛かりそうな勢いだった。
「へえ、僕たちとやるつもりかい?」
「今すぐ出ていかないならね」
せせら笑うマルフォイに、ハリーはきっぱり言った。マルフォイの後ろに控えるクラッブもゴイルも、ロンとハリーよりも体格的にずっと大きかったので果敢に立ち上がった二人を見て、私は少しロンとハリーを見る目が変わった。
「ああ、忘れていた。君も赤毛だが、そこにいる馬鹿な奴とは違って綺麗な色の髪をしてるね」
「それはどうも。お褒めにあずかり光栄です」
ロンとハリーに対する気持ちを改めていた時、マルフォイに声をかけられた。ロンは、我慢ならないと言う風に拳を握ったが、私はくるりとマルフォイの方を向き直って微笑してそう言った。
「君の名はなんだい? 君が良ければ、僕たちのコンパートメントに来ないかい?」
そろりと、ゴイルがロンの側にあった蛙チョコに手を伸ばそうとしている。私は、それを横目に、名乗りもせずにマルフォイの誘いをばっさり断った。マルフォイは、今まで笑っていた私までもが、自分の提案を断るとは思ってもいなかったのだろう。目を白黒させて私を見つめる。
「私の髪を褒めてくれたのは嬉しいけれど、残念ながら、マルフォイとは仲良くできないわ」
「…なぜ?」
マルフォイは、私の言葉に怪訝そうな視線を寄越した。私はそんな彼を見て溜息を吐くと、鬱陶しく左目の前に垂れている前髪を耳に掛けて、いらいらとした口調で言った。
「私、察しの悪い人って嫌いだわ。それに、家族と友人を馬鹿にする人は、もっと嫌いなの。…家柄だけで、その人と付き合うかどうかを決めるなんて、愚かな人のすることだわ」
ちょうどその時、ゴイルが恐ろしい悲鳴を上げた。ロンのスキャバーズが彼のでっぷりとした指に食らい付いていた。ゴイルはスキャバーズにがぶりと噛み付かれている方の腕をぐるんぐるん振り回すと、クラッブとマルフォイは後ずさりをして通路に出る。
ゴイルがやっとの思いでスキャバーズを振り切ると、その三人は足早に消え去った。窓に叩き付けられたスキャバーズは、ぽてっと床の上に落ちている。ロンが尻尾をつかんで引き上げると、驚いたことにスキャバーズは眠っていたのであった。
「あと五分でホグワーツに到着します。荷物は別に学校へ届けますので、車内に置いていってください」
車内にアナウンスが流れた。私が見た時、窓の外はすっかり暗くなっていて、深い紫色の空の下に山や森が溶けていた。汽車は確かに徐々に速度を落としており、ホグワーツが近付いているのをさらに感じさせた。
「さあ、お菓子を片付けましょ」
私の声に頷いた二人は、散らばっていたお菓子を集めて、急いでポケットに詰め込み出した。さあ、ようやく待ちに待ったホグワーツに到着するぞ。私は、ローブのポケットに杖を差し込みながら、そんなことを考えた。
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20160220 加筆