6.あのひと3 一通り点検を終えた教授が、それらの試験官を魔法で部屋の入り口付近のテーブルへと追いやると、見たことのあるクリーム色の箱を持ち片足を引き摺りながら移動して、私の正面へ腰を下ろした。 「ミス.ウチハ」 「…はい、教授」 「お前はこれに見覚えがあるだろう」 「…はい、確かに」 「どうしてこんなものを我輩に送ったのだ」 「…それは、」 教授の手に抱えられた箱は、私が教授に送った物であった。中には消毒液や清潔な脱脂綿と、包帯が数巻入っている。やはり迷惑だったか…しょんぼりと視線を俯かせると、正面からの気配がそわそわとするのを感じる。 「ミス.ウチハ。我輩はお前の好意を責めているのではない。 ただ、…何もなしにこれを送ることはしないだろう?」 私が黙っていると「我輩は理由を聞いているのだ」といって、テーブルの上にその箱を置いた。その際、テーブルと箱が触れた時に鳴ったカタンという音が、やけに大きくこの部屋に響く感じがして、なんとも気まずい。けれども、正直に訳を話さなければ、休み時間いっぱいまで彼は私を解放してくれそうにないので白状することにした。 「…ハロウィーンの夜 トロールに襲われた私を医務室まで運んで下さったのは 他でもないあなたです。そうですね、スネイプ教授?」 「いかにも…」 「…そして教授は、その時から片足を怪我されている」 私がそういうと、目の前の教授はじっと見ていなければ、その変化に気付かなかったが、かすかに瞠目した。立続けに、実は教授に運んでもらっている最中に目が覚めていたこと。教授が歩みを進めるたびに伝わる振動に違和感を感じていたこと。 それから一週間。私の驚異的な回復力を以てして、やっと医務室から解放された私が、退院後、彼を初めて見た時『足を怪我している』ことが自分の中で確定し、タイミングを掴めずお礼も言えないしで、居ても立ってもいられなくなったことを告げる。 「…お前はだてに、人のことを見ている訳ではないのだな」 「え?」 「まぁ、いい…我輩が聞きたいことは聞けた。 時間を取らせたな。次の授業は呪文学だったか?」 「いえ、教授。…私はちょうどお休みです。 折角送らせて頂いたのですから、ここで治療させて下さい」 私の言葉に、教授は眉間に皺を寄らせた。「お願いします。教授…私の気が済まないのです」と言えば、私の熱意に押されたスネイプ教授は、しぶしぶガウンの裾をたくし上げた。 そこから顔を覗かせたのは、痛々しい血だらけの足だった。あの日、私をベッドに下ろしてから、校医に診てもらえば良いものを…頑固な人だなぁと思いながらテキパキと作業を進めていた。 スネイプ教授が、こんな酷い傷を前にして怯むことなく黙々と処置を施していく私の手際の良さから『どうして手慣れているのだろうか?』と自分の生徒を見つつ、またひとつ疑問を膨らましていたことなど…作業に集中しきっている私は、彼の眼差しに気付かなかったのであった。 20130810 title by MH+ 6/15 [top] |