3.へいおん2
間に合わなかったかぁ…ブォン!と振り下ろされたトロールの持つこん棒から腕の中の彼女を守るように抱きしめれば、直撃は免れたもののガツンと砕けた木片が頭部にあたった。ズキズキと痛む頭。額からはぬるりとした液体が流れ出る。

「…先輩、血が…!」

「グレンジャーは、私の後ろにさがって!
 私がこっちに引き付けるからその隙に向こうの壁まで走って!」

私が叫んで、彼女へ指示した壁とは反対側に飛び退くと、目に涙を浮かべながら彼女は走った。そうね。賢明な判断だ。賢い子は嫌いじゃないよ。その姿を見た私は笑みを浮かべた。

相変わらずこん棒を振り上げ、そして振り下ろす寸胴で鈍いトロールを見ていると、こいつの知能のなさが伺える。こいつは、私の敵ではなかったが…いかんせん。ここにはハーマイオニーがいる。忍術は使えないし、驚異的な脚力を駆使した体術も使えない。

ぎりっと唇を噛みながら、トロールの幼稚な攻撃を交していると、何を思ったのかこいつは、急に方向転換をしてハーマイオニーがいる方へとこん棒を振り回し始めたではないか。ダメだ!と思った瞬間、私は足にチャクラをまとわせ彼女の元へ飛んだ。

「ぐぁっ!」

「…せ、先輩!レイリ先輩!」

ハーマイオニーを庇って、私は左の脇腹にやつのこん棒の重い一撃を食らった。その痛みに、嫌な汗をかく。肋骨を数本持って行かれたかも…しれない。写輪眼を発動しそうになるのを必死に抑えながら、私はギリッとトロールを睨んだ。その視線に怯んだそいつは動きを止める。

「「ハーマイオニー!!」」

するとそこへ、やっと彼らの助けが入った。「ロン!ハリー!!」と腕の中の彼女が叫び、その声が血の足りない頭に響いた。「先輩が…レイリ先輩が、私を庇って怪我をしているの!!」とハーマイオニーが伝えると、二人には私が血を流してぐったりしているように見えたのだろう。トロールを前にして怯えた身体を叱咤し、目の色を変えて果敢に挑んでいった。

「待って!今助けるから!」
「やーい、ウスノロ!」

もう、大丈夫。彼らはトロールに勝つ。ハーマイオニーとのわだかまりも消える。そんなビジョンに安心した私は、身体の力を抜いた。目を閉じると、腕の中のハーマイオニーに「先輩、先輩!」と必死な声で呼ばれるが、私は疲れたため気の利いた返事も出来なかった。

少年二人とトロールの攻防の末に、ドサッと音を立てながらトロールは倒れた。「これ…死んだの?」とハーマイオニーがやっと口を開き「ノックアウトされただけだと思う」と息も絶え絶えにハリーが言った。

バタバタバタッと大人の足音が三つばかり聞こえてくる。それに気付かない二人は、血だらけの私に守られるように身体を覆いかぶせられ、へたり込みながら震えるハーマイオニーの所へと近寄ってくる。ほどなく、マクゴナガル先生が現れ、その後からスネイプ先生、クィレル先生の順で女子トイレに到着した。

面倒事には巻き込まれたくなくて、私は気絶したフリをした。

20130810
title by MH+

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