万物流転 | ナノ
36.うらぎり3
ホグワーツ校は、束の間のクリスマスに賑わいでいた。相変わらず、猫のクルックシャンクスの飼い主ハーマイオニーと鼠のピーター・ペティグ…じゃなくって、スキャバーズの飼い主のロンは、彼らのペットのことで仲違いをしていた。ハリーはと言えば、そんな二人に挟まれて暗い顔をしていた。

温かい暖炉の傍らで、先日送られてきた手紙を片手に私は溜息を吐いた。その溜息は、パチパチと焚かれている木が弾ける音に掻き消される。その手紙は『すまない、レイリ』とやや癖のある字で始まっており、以下のことが書いてあった。

***

魔法法執行部の闇祓い本部からの要請により、クリスマスの約束を果たすことが出来なくなった。お前も知っている通り、アズカバンから脱獄したシリウス・ブラックを捕まえるために看守の吸魂鬼が躍起になっておるのは、お前もすでに知っておろうな?

魔法省はホグワーツにも看守を派遣し、ブラックの件で警備させている。アルバスからの手紙によれば、ついに学校の敷地内に奴らが侵入したそうじゃないか?わしは肝を冷やしたよ。

レイリ。お前さんが誰にも想像が出来ない様な辛い過去を背負っておることを知っておるのは、わしとダグラスのただ二人だけだろう。それにお前は喋りたがらないから、他の奴らはきっと知らないはずだ。しかし、吸魂鬼はお前の経験した最大の恐怖にきっと引き寄せられる。わしはそのことを危惧しておる。


――送られてきた便せんは二枚目に突入して、次第にその癖字は乱れていく。――

さて、どうしてわしがお前に会えなくなったのか理由を書こうと思う。それは無論、アズカバンの看守をホグワーツやホグズミード村へ派遣して、監獄の警備が手薄になることを危惧した魔法省の奴らが闇祓い局に収容者のお守りを押し付けたこともあるが、それだけでは隠居の身のわしを連れ戻すだけの口実にもならん。

しかし、それだのにわしが闇祓い局へ赴かざるを得ない状況になったかと言えばだな、魔法省当局は、秘密裏に極一部の官僚たちで話を進めていたらしい。お前は、わしが申請したお前さんの処遇について、本部からのお達しには「レイリ・ウチハを5年で闇祓いとして完璧に育て上げること」を条件にお前をわしの養子にしたことを覚えておるか?まぁ、あの辛い五年間を忘れろと言う方が無理なのかもしれんが。

本当にとみなことだが、お前のホグワーツでの成績や生活態度から推し量り、さらには今回のシリウス・ブラック脱獄の不祥事ときて、ついに魔法省はお前を「闇祓い」となる資格を持つ者として認定した。

弱冠一五歳にして、闇祓いの資格を賜ったのは師匠としては鼻が高いよ。おめでとう、レイリ。しかしだな、保護者としては身を切られる様な思いだ。わしはお前がまだ魔法界のことを何も知らない餓鬼の頃から知っておるからな。

ただこれだけは注意しろ。今年はブラックの事件で本部がばたばたしよったからに、六月末に延期になったO.W.L試験には、どの教科も『E』以上で合格することだ。オール『O』で合格すれば申し分ないが。そうでなければ、当局はお前の闇祓いとしての資格を剥奪しかねんからな。

レイリ、よいクリスマスを。わしが教えてやったパトローナスを使う機会がないことを心から祈っている。

A.M

***

そして今朝、彼からの二通目の手紙が届いたのだ。中身を読んだ時、私は愕然としたものである。とんだ、クリスマスプレゼントだよ!ほーんとに!

20130817
title by MH+

*ダグラスは実はすでに登場しています
もちろん、彼はオリジナルキャラクターです
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