万物流転 | ナノ
16.みぎうで3
ハグリットの横の柵に繋がれた銀色のヒッポグリフ(バックビークという名前らしい)は、猛勇に翼をばたつかせていた。

僕らの目から見ても、繋がれているのが嫌だと主張していることが分かるそれに、レイリ先輩が近づいて行った。なにを!?…どうやら、僕ら三年生にお手本を見せてくれるらしい。先輩はローブを脱いで、ヒッポグリフを繋げてある柵にそれを引っ掛けた。

鎖をほどいた先輩は、ハグリットが怪獣の革の首輪を外すのを確認すると、それから十分距離を置いて瞬きをせずじっと見つめた。三年生は今や、息を止めているかのように静かだ。

オレンジ色のバックビークの目が先輩を映し、相手がどう出るかを伺うような視線を投げかけている。ばたつかせていた羽を下して、僕らはしばらく待つ。ガサリと草を踏みしめる音が聞こえ、それは鱗に覆われた前脚を折っており、ここにいた誰もが目の前の魔法生物がレイリ先輩にお辞儀をしたのだと分かった。

グリフィンドールからは割れんばかりの拍手を送られ、照れくさそうに頬を染める先輩に誰かが「レイリ先輩ってかわいいよなー」と話しているのが聞こえた。マルフォイ達と言えば、先輩が成功したのを見て酷くガッカリしたみたい。『レイリ先輩が失敗するはずがないだろ!ざまあみろ!』と僕は心の中だけで毒を吐いた。

「よーし、誰が一番乗りだ?」

ハグリットの言葉に拍手の音は消え、ザザッと皆が後ずさった。僕だけが取り残され、さっき先輩が行ったことをハグリット監修のもとやることになった。先輩は「彼女は比較的大人しいから、ハリーなら大丈夫だよ」と小声で僕に言ってくれた(エ!バックビーグってメスなの!?)けど、すごく緊張した。何と言っても、正面に立つと彼らの発する堂々とした雰囲気に気圧されるみたいだったから…。

なんとか成功した僕は、ローブの袖で額を伝う汗を拭った。「お疲れさま」と微笑んだ先輩に、さっきの誰かが言った言葉を思い出し、ほっこりとしているとハグリットに「背中に乗せてくれると思うぞ」と両脇を掴まれて、何の前触れもなく僕はバックビーグに乗って空を駆けた。

「エ!ちょ、ちょっと…ハグリットぉおおお!!」
僕の叫びは飛翔するヒッポグリフの背中から、虚しく空に響き渡るだけでした。

20130815
title by MH+

*ビックバーグがメスなのは仕様です
[top]