万物流転 | ナノ
13.そうなん10
ハリーが目を覚ましたのは、ホグワーツ校のホームへ着くおおよそ十分前のことだった。人の波に流されるようにして、私は彼ら三人と泥濘んでデコボコとした馬車道に出た。

乗車中も言葉数も少なになり、みんな暗い顔をしている。特にロンとハーマイオニーは、ハリーがまた気絶するのではないかと恐れて、その道中馬車に揺られながら、ちらちらと横目で視線を送っていた。

青ざめた空の降らす冷たい雨が、壮大な鋳鉄の門を濡らしていた。また、門の両脇の石柱の側には、先ほど彼を襲ったのと似たようなディメンターが、黒い頭巾で顔を覆い隠しながら警護している。それを見たハリーは、気を悪くしたようで、馬車の座席に深々と寄り掛かって目を閉じた。

私達が馬車を降りると、気取ったいかにも嬉しそうな声が聞こえてきた。「ポッター、気絶したんだって?え?」マルフォイはハーマイオニーを肘で押し退け、ハリーと城への石段との間に立ちはだかった。「失せろマルフォイ!」ロンが噛み付くように言うと、さらに彼は続けて「ウィーズリー、君もあのこわーい吸魂鬼で縮み上がったのかい?」と言う。

私は不愉快に眉を歪めると「マルフォイ。それ以上言ったら、スリザリンから5点減点します」冷静を装いながら、自分でも驚くぐらいの冷たい声で言い放った。ビクッと肩を震わせたおチビさんは、今まさに私の存在に気付いたとでも言うかのように「お、お前にそんなことが出来るものか!」と叫んだ。

「…残念ながら、それが今年から出来るんだ。
 ごらんよマルフォイ…これが、何か、君には分かるだろう?」

私は胸に付けているバッジを指差しながら嘲るように「君は賢い優秀な魔法使いだもんね…分からないはずがない!」と言った。後ろに控えている彼の取り巻きの一団も、私の胸のバッジを見てどよどよとざわめいた。

「どうしたんだい?」

私達の後ろで穏やかな声がした。その声はルーピン教授で、ちょうど馬車から降りてきたらしい。マルフォイは私から目を教授に遣ると、おごりたかぶった目付きに戻ってジロジロと見た。「いいえ、何も…先生」と最後の一言にかすかに皮肉を込めて城の階段を登って行った。

「…次に私の前でルーピン教授に失礼な言動をしたらしょっぴいてやる」

私のこの呟きは雨の音の中に掻き消え、誰にも拾われる事はなかった。

20130815
title by MH+
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