万物流転 | ナノ
35.わらって9
「クェー」とフォークスが鳴いて、僕は自分の状況を瞬時に理解した。僕は今、今…先輩に抱き着いていて、それで、それで…!身体が火照るのと同時に、僕は先輩から離れた。先輩はクスクス綺麗な顔をして笑っているし、恥ずかしさで僕はどうにかなりそうだ。

フラフラと立ち上がり、バジリスクの上顎に刺さった剣をちょっとだけ乱暴に引き抜いた。ぐるぐる回る視界に、先ほどの自分と先輩の光景が浮かんでくる様だった。あーあーフレッドかジョージに知られたらマズいよ!非常にマズい!今度は、僕が二人に石にされてしまうかも…

くるりと反転して見れば、レイリ先輩はすでにそこには居らず…『秘密の部屋』の隅っこに横たわるジニーの傍で何かをしていた。ここからでは彼女の背中しか見えないが、ジニーの身体に触れている手元が緑の淡い光を発しているのが、この薄暗い部屋の中では浮き彫りになっていた。

僕が組分け帽子と日記と牙を拾い上げて近づいていくと、先輩は手を止めてしまった。折角のチャンスだったのに…けれど、ジニーの手がピクピクと動き瞼が開くのを確認すると、僕は駆け寄った。二人で彼女が身を起こすのを手伝ってやり、涙を流す彼女を先輩がおんぶして一緒に歩いた。

しばらく歩くと、岩がずれる音が響いてくる。薄暗い中目を凝らすと、人ひとりがやっと通れるくらいにまで岩の隙間が広がっていた。「ロン!」僕が叫べば、その隙間から泥と汗まみれの彼の顔が見える。先輩がストンとジニーを下ろしてあげて、彼女の涙をローブの袖で拭ってあげていた。

「ジニーは無事だ!ここにいるよ!」

ロンが胸の詰まったような歓声を上げるのが聞こえてきて、僕達はその声の方へと駆けて行く。僕達は先にジニーに穴を潜らせて、次は僕が、そして最後に先輩を僕が引っ張った。スルッと穴から顔を出した先輩に、ロンは酷く驚いて素っ頓狂のような声を上げて飛び上がった。

「どうしてレイリ先輩が!?
 それに、君はどうして剣や組分け帽子を!?」

「話せば長くなると思うから…ねぇ、ポッター?」
「そうですね、先輩。…ここを出てから説明するよ、ロン」

忘却術の逆噴射により、記憶をなくしたロックハートの襟首を先輩が引っ掴んで立たせた。乱暴な手付きの割には、手際のいいその作業に僕とロンはポカーンとしていたが、ジニーが不安そうな顔をして「どうやってここを登るの?」と口にしたので僕達二人は悩んでしまった。

「…ほら、三人ともフォークスを見て?」

いたずらっ子のような笑みを浮かべた先輩の指示通りに僕らは頭上を舞う真紅の鳥を見上げた。そうか!フォークスに捕まっていけば、みんなでここから出られるじゃないか!僕はロンとジニーと手を繋いだ。ロックハートの首根っこを掴んだ先輩はロンの手を握る。

ふわっと、まるで身体が雲になったかのように軽くなってひんやりした空気を感じているうちに、嘆きのマートルのトイレへと到着した。一行をじろりと見たマートルが、僕に向かって「生きてるの?」と残念そうに言った。そして「もしあんたが死んだら、わたしのトイレに一緒に住んでもらえたら嬉しいって!」と、銀色に透き通る頬を染めた。

「ウヘー! マートルが君に熱を上げてるぜ!」

20130813
title by MH+
[top]