万物流転 | ナノ
10.いもうと
私が下に降りて行くと、夫人がすでに朝ご飯の支度をはじめていた。鶏の鳴く声が外の庭から聞こえてくる。階段の側に佇んで、夫人の後ろ姿見ながら鶏の声と風に吹かれる草のこすれ合う音を聞いていると、とても清々しく思えた。

「おはようございます、モリーさん」

「あんらまぁ、レイリちゃん!あの子達には何もされなかった? まさか同じ部屋で女の子であるあなたを寝かせるとは、おばさんも思ってなくって!きつく叱っておいたのだけど…」

「大丈夫ですよ。フレッドもジョージもとても親切なので」

「そう?それなら良いのだけど…。お腹空いてるでしょ?そりゃそうよね。お昼も夜も食べてないものねぇ…」

がちゃがちゃと準備を始める夫人を慌てて止めて「シャワーを貸して下さい」とお願いした。夫人は真っ白でふわふわのタオルを渡してくれて「洗濯物はこのカゴに入れてちょうだいね」とにこやかに言う。

汗を流して身体を清め終わったら、清潔な下着と服に着替えて髪の毛を乾かす。洗面台の鏡に映る私は、昨日よりもずっとスッキリとしていて顔も赤くなければ、ふらふらもしないし…どうやら風邪は治ったらしい。まだ完全に乾いたとは言えないが、髪の毛を頭の高い位置でひとつにまとめてポニーテールにした。

狭い通路を抜けて、台所のある部屋へと行けばウィーズリー氏がここにある一番大きな椅子に座って日刊予言者新聞を読みながらコーヒーを飲んでいた。彼が私に気付くと「おやおや!」と言って両手を上げた。

「お久し振りです、ウィーズリーさん」
「いやいや。来てくれて嬉しいよ。可愛くなったねレイリ!」

ぎゅっとその大きな胸の中に抱き込められて、ポンポンと頭を撫でられた。フレンドリーな接し方のウィーズリー氏は、本当に子供が好きなんだなぁと思う。私はそんな彼のことが嫌いではない。

「お父さん!それ以上やるとセクハラで訴えるよ あたしが!」
「あらジニー!早いのねぇ」
「おはよう、ママ」

「いやぁ…ジニーの言う通りだ。すまないレイリ」
「いえ、大丈夫です」

ジニーが席についたので、私も何となく彼女の隣りに座った。ポットがひとりでに私と彼女のマグにミルクティーを注いでくれるのを見ていると、ベーコンの焼けるいい匂いがしてきた。

「レイリさん、兄たちに何もされませんでしたか?」
「え?…あぁ、フレッドとジョージね。大丈夫よ何もされてないから」

にっこりと微笑んで言えば、ジニーは「そうですか…」とほんのりと顔をピンクに染めて俯いた。私に妹はいなかったけど、もし妹がいたらこんな感じかなぁと思う。可愛いなぁ。自分でも知らないうちに手が伸びていて、うっかり彼女の深くてたっぷりとした赤毛を撫でていた。

20130811
title by MH+
[top]