万物流転 | ナノ
2.はてまで
建物を出て裏路地まで行くと、トルコ色の小型車が暗がりの中で薄ら光って見えた。フレッドがその車の後ろへ周り私の荷物をトランクへと詰め込んだ。車の中へと目を向けると、そこには驚愕した表情を浮かべる彼らが弟のロナルドくんがいるではないか!

私は羞恥に堪え切れず、じたばたとジョージの腕の中でもがくが…身長もそこそこあり、細いくせしてクィディッチで鍛えた屈強な男の子の力の前には為す術はなかった。大人しくなった私に微笑み、車内にいるロンへと声をかけ後部座席の扉を開けさせた。

先ほどよりは幾分か落ち着いた表情のロンに「…こんばんは」と言えば「どうしてレイリ先輩が…」と若干困惑気味な青い瞳に見詰められた。「さぁ、お次はハリーだ!」と運転席にいるフレッド。「準備はいいかい?」と助手席のジョージが後ろの私達に微笑みかける。

フレッドがアクセルを踏むと、数分としないうちにこの車は浮いて空を走り出した。びっくりした私は思わず窓から下を覗くと、つい先ほどまで私がいた古ぼけた宿泊施設の建物の屋根が、あっと言う間に小さな点となり夜の闇に呑まれ識別出来なくなっていった。


***


私はウィーズリー三兄弟がハリーの暮らす家を目指して、この車でロンドン上空を飛んでいる間。そして、三兄弟が実の保護者によって軟禁されていたハリーと梟のヘドウィグを救い出したその間…深い眠りについていたらしい。

その間のことを、この車に同乗していたはずなのに、何一つとして知らなかったのだから…私の睡眠の深さがそこから伺えるだろう。ハリーらしき声と三兄弟が会話するのが浮上した意識の中に入ってくる。それを聞き流しながら、ぼやぼやと映画のヴィジョンを思い描いていた。

まだ寝ぼけている頭をどうにかしようとしても、私の座っている座席はなんとも心地よく、人肌くらいの温かさがそこにはあり、ロンが隣りにいようがいまいが、このまま寝顔を晒しても良いとさえ思えた。しかし、薄らと開けた視界に飛び込んできたのは、燃えるような赤い毛で…

「お目覚めですか、お嬢さん?」

「ぇえ!…ジョージ!?どうして、あなたが私の下にいるの!?」
「下もなにも…僕が君を膝に乗せて座っているからじゃない?」

「なっ!!」

心地よいと感じていた人肌の座席は紛れもなくジョージの肢体で、寝顔はバッチリとロンくんだけではなく私を抱くジョージは勿論。運転をしているフレッド、そして後部座席に座るハリーとロンにも見えていました。あーあーあー。恥ずかしくて死ぬというのは、このことだったのですね。

何度目か分らないが、恥ずかしさに悶絶する私を尻目に「大通りが見えてきたぞ」とジョージがフロントガラスから下を覗き込んで言うと、後ろの二人が気の抜けるような欠伸をした。東の地平線は、ほんのりと色付き始め…長いようで短い夜が終わりを告げる。

20130811
title by MH+
[top]