万物流転 | ナノ
23.憎しみは血に溶けて糧となる3
「伝説の三忍と謳い称された自来也様ですからね」

青い肌をした大男、干柿鬼鮫は自分の攻撃が自来也の寄越した蝦蟇によって防がれてしまったことに少しだけ苛立っていた。

「あなたがいくら無類の女好きでも、そう簡単に足留めが成功するとは思いませんでしたが…」

今回のターゲットであるナルトが、自来也をエロ仙人と称したことは賛同に値するが、鬼鮫は少しもそのことを表には出さずに、振り下ろした鮫肌に一層の力を込めた。しかし、蝦蟇も蝦蟇で、下から鮫肌を撥ね除けようと、押し上げる力を強めただけであった。ギリギリッと両者の力は均衡を保っている。

鬼鮫の後方にいたイタチは、白髪の大男に担がれた女を見遣った。女の身体からは、自身のチャクラが全く感じられなかったので、自来也が女にかけていた幻術を解いたことが分かる。鬼鮫は唇を歪め、その隙間から鋭い牙を除かせて嗤った。

「どうやら、その女にかけていた幻術は解いたようですね」

イタチは、自来也の登場も想定の範囲内と考えており、鬼鮫よりも余裕そうに立っていた。まるで、足元に転がる実の弟なぞの存在は微塵も視界に入っていないようだ。自来也は、鋭い視線をイタチに向ける。

「ナルトからワシを引き離すために、女に催眠眼で幻術をかけるたァ…」

肩に担いでいた女性をゆっくりと労るように下ろすと、壁へ凭れ掛からせるように座らせた。黒髪がさらさらと流れる。女性の瞼は閉じられ、その横顔は少しだけ幼さを滲ませている。イタチは、何故かその女の横顔に一瞬だけ惹き付けられたように目を留めた。

自来也は、男の風上にも置けないと、忍びでもない色町の一般人女性にイタチが行った非道を評すると、その女性の前にしゃがんだ体勢のまま、彼らを睨み上げて呟くように言った。

「目当てはやはり、ナルトか」

ナルトは自来也のその言葉に目を見開いて固まった。また、イタチの足元に倒れたサスケは、折れた左手首の痛みに歯を食いしばりながら、イタチ達がここに現れた目的が、ナルトであることの意味を必死に考えた。彼の頭の中では、砂の我愛羅との戦いにボロボロになりながらも勝利したナルトの姿が思い描かれた。今までで、自分が見たこともないナルトの強さだった。

「なるほど…道理でカカシさんも知っていたはずだ」

自来也の言葉を受けたイタチは、瞬時に、先の戦闘においてはたけカカシが暁の名を口にしたこと思い出し、その情報源が彼であったことが分かった。そして、己が属する組織である暁の至上命令が『ナルトを連れ去ること』だというのを明かした。

「ナルトはやれんのォ…」

立ち上がった自来也が、印を組んで蝦蟇を帰すと、重力に従った鬼鮫の鮫肌は、宿屋の床を陥没させた。白煙の奥から、鬼鮫が鋭い視線を自来也に送っている。

「どうですかね…」

挑発的にも取れる、落ち着いた口調でイタチが言葉を返した。鬼鮫は、その言葉に大刀を握り直して、無駄な力を身体から抜いた。

「ちょうどいい。お前ら二人はここで…ワシが始末する!」

自来也が黒地に赤い雲を浮かべた二人を睨み付けながら言い切ると、緊張が張りつめ、暫し対峙する両者の間に沈黙が流れた。

「…手ェ 出すな…!」

しかし、その沈黙を破る者がいた。それはナルトではない。乱れた息をそのままに、フラフラと立ち上がった彼は、暗澹とした、虚ろな目をしていた。

20150709
title by 207β
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