万物流転 | ナノ
22.憎しみは血に溶けて糧となる2
ナルトの脳裏には、担当上忍であるカカシ先生と班員である自分たちの顔合せの日に、自己紹介としてサスケが言った言葉や、波の国で白にやられて意識を失う寸前にサスケが言った言葉がぽつぽつ並べられた。

サスケを孤独の苦しみへと追いやった張本人が、彼の殺したい男。つまり、サスケの実の兄だったと言うことが、自分の中でやっと整理出来たのだ。サスケの両手は固く握り締められている。尚も鋭い眼光は、イタチの背中に向いたままだ。

イタチはようやくサスケの方に振り向いた。長い沈黙の間、お互いに睨み合って、重たい空気が流れる。これが、長く離れていた兄弟の対面であって良いのだろうか。そんな中、サスケが、口火を切って話し出した。

「アンタの言った通り…オレは、アンタを恨み憎み、そして…」

サスケは両眼の紅い写輪眼で兄のイタチを見て、何を考えているのか。ナルトには分らない。サスケの瞳は、一等暗くなっていく。

「アンタを殺す為だけにオレは…」

煮えたぎる復讐心が、彼の左腕を突き動かす。

「生きて来た!!」

チチチチッと鳥の鳴き声に良く似た独特の、あの術の音が、ナルトの耳にも聞こえた。この術は、中忍試験で大衆の前にお披露目となった――

「…千鳥?」

イタチはその術を知っているようで、術名を小さく零した後、訝しげに弟の動向を見遣る。サスケは、左手に電撃を溜め、小さい雷のような青白い電流を腕に纏わせている。雄叫びを上げ、宿屋の壁やドアなども巻き込みながら突進攻撃を仕掛けるサスケに対して、最も早く対処したのは、言わずもがな、イタチである。

自分に向かってくる千鳥を、右手でサスケの手首を掴んで簡単に去なしてしまった。イタチがそうしたことで、彼の背後の壁は吹き飛び、部屋が一つダメになった。猛進してくる弟に対して、カウンターで対抗しなかったのは、兄としての優しさなのだろうか。

「どうなってんだってばよ…サスケの術が、こんなにあっさりやぶられるなんて!」

ナルトは、その一連の流れを見て、自分がなんとかこの状況を打破しなくてはと思った。体の前で基本の印を組んで、チャクラを練ることに集中する。あっと言う間に空間を埋め尽くしていくチャクラを感じ取った黒い衣を身に纏う二人は、ハッとしてナルトを見た。

九尾のチャクラを垣間見たイタチは、次の一瞬で連れの男に合図する。また、尚も食い下がる弟の左腕を、片手の握力だけで「邪魔だ」と言って折ってしまった。

サスケの悲痛な叫び声を聞いたナルトは、悔しくて堪らなかった。そこで、最近覚えた口寄せの術を発動しようと印を組み始めるも、青い肌の大男が、背負っていた大刀をシュッと振り下ろす。

「遅い!」

すると、今まで感じていたチャクラが全く無くなってしまったのだ。焦るナルトを余所に、笑みさえ浮かべる大男が残酷な言葉を告げる。

「くそ!くそ!なんでだってばよ!?」

「私の鮫肌は、チャクラも削り…喰らう!」

大凡の刀とは思えない奇妙な音が、青い肌の大男が担ぐ『鮫肌』から聞こえてくる。白い布を刀身と思われる場所に巻き付けられて、窮屈そうに、鮫肌は布の下で蠢いている。ナルトは、見たこともない相手の武器に恐れ戦いた。

「ちょこまか術をやられると面倒ですね…」

サスケは、イタチに腕を折られてから、床に踞って右腕の痛みに堪えていた。こんなはずではない。自分は、あの時よりも強くなったはずだ。そんな気持ちと痛みが、己の中でぐちゃぐちゃになって、現実の実力の差を、まだ受け付けられていないのである。

「まず、足より…その腕を切り落としましょうか?」

大男が鮫肌をナルトの方へ振り向けて嗤う。イタチは何も言わない。ナルトは九尾のチャクラを呼び起こそうとして、必死になった。しかし、待てどもチャクラは一向に湧いてこない。

「なんで出ないんだってばよ!」

苛立つナルトをせせら笑うように「無駄ですよ」と声を掛ける青い肌の大男は鮫肌を振り上げた。鮫肌が空を切る音がする。ついに、ナルトへ大刀が振り下ろされようとした。その時!ナルトと大男の間に白煙に包まれた蝦蟇が現れた。これの意味するところは――

「お前ら、ワシの事を知らな過ぎるのォ…」

白髪の大男が、黒髪の女性を右肩に俵担ぎにしてナルトの背後に立っていた。ナルトは、その白髪の大男自来也の登場に、一気に心強くなる。笑顔さえ浮かべられる余裕も出てきた。

「男自来也、女の誘いに乗るよりゃあ、口説き落とすが、めっぽう得意…ってな」

自来也は、黒衣の二人に睨みを利かせて、不敵に笑った。

「この男 自来也!女の色香にホイホイと、付いてくよーにゃできとらんのォ!!」

20141127
20150714加筆
title by 207β
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