万物流転 | ナノ
21.憎しみは血に溶けて糧となる
「エロ仙人ってば、ちゃんとオレの修業見る気あんのかなぁ!」

本日の宿へ、自来也によって置去りにされたナルトは、一人で退屈な時間を持て余していた。床の上で腹筋や背筋などという筋力トレーニングをすることにも飽きて、今度はベッドの上で、自来也の言い付け通りにチャクラを練る修業を行っていた。

胸の前で印を組み、目を閉じてチャクラの流れを意識する。しかし、自来也の態度や言動を受けたナルトは、彼に対する疑いの気持ちを追い払えない。元より集中することを行ってこなかったナルトなので、意識が別へ逸れてなかなか満足にチャクラを練ることが出来ないでいた。しかし、彼が致命的なのは、なにもチャクラコントロールだけではない。

するとそこに、部屋の入口の方からノック音が聞こえた。ナルトは、先程の色気ムンムンのお姉さんに、自来也がフられて帰ってきたのだろうと予想をしてベッドから蛙のように飛び降りた。返事をしても、尚も続けられる規則的なしつこいノックに、イライラしながらナルトは扉へと歩いて行く。

「はいはーい。今、開けるってばよー」

いかにも億劫そうな手付きで部屋と廊下を隔てる扉の鍵を開け、チェーンロックも外す。次の瞬間、彼の体に衝撃が走った。ナルトが扉を開いた隙間から覗いたのは、よく知るチームメートと同じ紅い瞳であったからだ。しかし、その瞳は、ナルトの知るあの瞳とは、映す色が全く異なっているのを感じ取ることができた。

ナルトは、忍が生き延びるための最重要である能力が欠けていた。それは、気配を察する力であった。

「しかし…こんなお子さんにあの九尾がねェ…」

ナルトがその紅の目に驚いて脱力していると、部屋の扉が完全に開き切って来訪者の全体像がハッキリ見えた。そして、さらに彼を驚かせたのは、紅い色の目を持つ男の奥に、自来也よりも背丈のある青い肌をした人物が立っていたことだ。

「ナルト君。一緒に来てもらおう」

いや、人物と言ってもいいのだろうか?ナルトには、正直正解が分からなかったが、今はそれどころではない。なぜなら、自分のトップシークレットとも言える、へその緒に封印されている九尾のことを、その来訪者の片方が忌むことも憚ることもせずに口にしたからである。

「部屋を出ようか…」

ナルトは、本能で相手に逆らっても自分に良いことはないと感じ取り、その指示に従って廊下に出た。ドクドクと、心拍数と恐ろしい程の不安感だけが、ただただ増えていく。足取りは重く、一歩、また一歩を踏み出す足音がやけに大きく響いた。

「うーん…イタチさん。チョロチョロされるとめんどいですし、足の一本でもぶった斬っておいた方が…」

青い肌の方の言葉に、ナルトはこれまで以上の身の危険を感じた。黒髪の写輪眼は何も言わない。そのことが、更に彼の恐怖を増幅させることを、知ってか知らずか。黒い衣の内でにやりと妖しく笑った青い肌は己が背負っている大刀の柄に手をかけぐっと握る。

「じゃあ…」

上から突き刺さるような、鋭利な視線に、ナルトは身を硬して足に力を入れた。大丈夫。自分の足はまだ自分のものだ。しかし、あと数秒したら、さよならをしなくてはならない状況に、あれこれ対処法を考えてみるも、浮かんでくるのはどれも妙案とは言えなかった。こう言う時、頼りになる友達がいるのだが、そんな彼も今はいない。どうする、どうする?どうする!

「久し振りだな…サスケ」

突然、沈黙を保っていた黒髪の男が言葉を発した。しかも、その相手が、自分の良く知る人間の名前だったので、ナルトは尚のこと驚いた。サスケは、ナルトがこれまで聞いたことの無い憎しみのこもった声色で『うちはイタチ』と言った。苗字がうちはだとすると、今自分の目の前にいる男は…!

「おやおや、今日は珍しい日ですねェ…」

ナルトはそこで合点がいったように、正面にいる黒髪の男。サスケと同じ『うちは』のイタチを見上げた。イタチは、先程自分を部屋から連れ出した時の表情と何も変わっていなかった。

「二度も、他の写輪眼が見れるとは」

うちは一族は、何者かに一夜にして滅ぼされたと言うことをナルトでも知っている。そんな一族の、唯一の生き残りと同じ場に立っていると言うのに、この男は何も感じないのだろうか。お互いが名前を知っている仲だと言うのに!

「アンタを…殺す!!」

サスケが、復讐の火を灯した紅い写輪眼でイタチを鋭く睨んでいるのがナルトには見える。イタチはと言えば、自分を殺すと宣言されているというのに、表情ひとつ変えることはしなかった。彼の紅い両眼は、どこを見ているのか分からない。ナルトは、その態度が、イタチがサスケなんて眼中にないのだと読み取れて、やるせない気持ちになった。

「ほう…写輪眼。しかも、アナタに良く似ている。…一体、何者です?」

掴んでいた大刀の柄からパッと手を離した青い肌の大男は、自分の後方に立っているサスケを振り返り見て言う。その声には、イタチから面白そうな情報が聞けそうだという期待も含んでいた。イタチは、事も無げに言う。

「オレの…弟だ」

ナルトは、その言葉に本日二度目の衝撃の受けて、息を呑んだ。その言葉を聞いた青い肌の大男は、己の知っていた情報と異なる事実を知らされて、探る様な目付きで言った。

「…うちは一族は、皆殺しにされたと聞きましたが?」

青い肌の男の言葉に、ナルトは、今度こそ息の仕方を忘れてしまった。ああ、なんと言う。まさか、そんな!

「――アナタに…」

20141227
title by 207β
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