万物流転 | ナノ
66.まぶしさ3
セドリックが校内を案内しようかと両親に提案すると、夫妻は微笑んでその必要はないと答えた。エイモスは「それより、今夜の準備をたっぷりしておくんだ。なんたって、セドは現在一位!私たちになんて構っていないで最終決戦の前に、できるだけのことをしておくべきだ」と言って息子の背中を叩いたのだった。

「頑張るんだぞ!」という声を背に、セドリックとレイリは小部屋を出ると、顔を見合わせてどうしようかと考えた。窓の外には、陽光がいっぱいの校庭が広がっている。レイリが話しながら歩こうかと言えば、セドリックもそれに頷いた。

今は、試験時間なので他の生徒達は皆、それぞれの教室に缶詰になっている。二人は、めずらしく静かな廊下を進んで校庭に出た。城の入口を出たところにある塀の足元の芝生には、スプラウト先生の趣味で植えられた色とりどりの花々が咲き誇り、二人を見上げていた。

「父さん、僕よりも張り切ってるんだ」
「ええ、そのようね…」

また少し歩いたところにある木の根元に腰を下ろして、ダームストラングの船が停泊している湖を眺めながら二人は話をした。セドリックは、陽光を反射してキラキラと光る水面を見つめているレイリの横顔を見た。

「ごめんね、君にプレッシャーをかけたいわけじゃないんだけど」
「謝らないで、セドリック。大丈夫よ、私は応援してくれる言葉じゃなくて、その心をきちんと受け取っているから」

風に揺れる黒髪が頬をくすぐるので、彼女は耳に髪をかける。いつもは、髪の毛に隠れて見えない耳や白い首筋が露になったので、セドリックはごくりと喉を鳴らした。レイリは、セドリックの変化に気付かないまま、髪をまとめようとして手首やローブのポケットにヘアゴムを探した。

隠れているものが露になったときの気持ちの昂りは、男子諸君には仕方がない反応と言えるだろう。レイリは、どこにもヘアゴムがないことを確認したので、髪を結ぶのは諦めたようだ。レイリの色の白さから目を逸らしたセドリックは、彼女に先程の彼のことを尋ねた。

「そういえば、さっきのビルっていうのはどういう人なの?」
「ビル? あぁ、あの人はウィーズリー家の長男で、今はグリンゴッツのエジプト支部で呪い破りをしてるそうよ」

セドリックは、さっきのことを思い出しながらその話を聞いていたが、胸の中が急にモヤモヤとしてきたので、顔をしかめそうになった。どうして自分がそのような気持ちになるのかを、彼自身よく分かっていたので「へぇ、そうなんだ」と返しながら苦笑した。

「じゃあ、チャーリー・ウィーズリーは二番目になるのかな?」
「ええ。チャールズ先輩が次男よ。彼は今ルーマニアでドラゴンの研究を…あぁ、ほら、第一の課題でお世話になったでしょ?」

「ああ、覚えているよ。伝説のシーカーだろう? それにあの時、レイリから抱きつきに行ってたし…」
「え?」
「あぁ、こっちの話だよ。気にしないで」

ダームストラングの船の甲板では、何人かの男子生徒がいて、一つのボールを追いかけながら、蹴ったり弾いたりして遊んでいた。まるでサッカーをしているようにも見えるが、彼らが何をしているのかは二人には分からない。

その男子生徒の奥には、数人の女子生徒をはべらせたポリアコフらしい生徒と、椅子に腰掛けるクラムがいた。女子生徒はクラムに話しかけたそうにしていたが、彼は全く相手にせず、湖のほとりにレイリ達がいるのに気付くと、立ち上がって軽く手を振ってくれた。

二人はそれに応えるように立ち上がって手を振ると、クラムは船の中に入っていった。ポリアコフの傍にいた女子生徒も、クラムの後を追いかけて行ってしまったので、甲板にぽつんとひとり残されたポリアコフは、弟らしい男の子に慰められるようにしていた。その一部始終を見ていた二人は、くすくすと笑い声をもらした。

セドリックとレイリは、お互いに取り留めのない話をしながら昼食までの時間を校庭で過ごした。二人がゆったりとした足取りで正面玄関から大広間へ入ると、そこには試験終わりの生徒達がざわざわと食事をしているところだった。

グリフィンドールのテーブルでは、まるで「隠れ穴」で昼食をしているような光景が広がっていた。ジニーはモリーの隣りに座り、ハリーのことを見詰めては、目が合いそうになるとそらしていた。ハッフルパフでは、テーブルの端の方にセドリックの両親が座っていて、エイモスが息子に気付くと、大きな手振りでセドリックを呼んだ。

「呼んでるわよ、セドリック。ほら、行ってきて」
「え?でも、君は?レイリ、君も一緒にこっちで食べようよ」
「いいから、行ってきて。私はこっちで食べるから。きっと、あなたのご両親は、助手の私以外にも、あなたから紹介してほしい人がたくさんいると思うわ。ね?」

レイリはそう言って、セドリックの背中を押すと、グリフィンドールのテーブルへ歩いていった。セドリックは、彼女にそう言われた手前、もう一度レイリを呼び戻すわけには行かないので、日頃親しくしている友人達の輪に交じり、彼らを両親に紹介するプランを考えた。

「おや、こちらのテーブルでいいのか?」
「からかっているの?シリウス」
「まさか!滅相もない。恩人の君をからかうだなんて…さぁ、レディ。こちらへどうぞ」

レイリがこちらに近付いてくるのに気付いたシリウスが、にやにやを引っ込めないまま言った。レイリは、ムッとしつつも、微笑はそのままに声を抑えて言った。幸い、二人の会話は周囲には聞かれていないようだ。シリウスは、横にずれてスペースを空けると、彼女を自分が座っていた場所に案内した。

「ああ!レイリちゃん。ちょうどあなたの話をしていたところよ」
「モリーさん」
「うふふ、大丈夫。変な噂じゃないわよ。ほら、これを見て…」

見せられたのは一枚の写真で、ダンスパーティーの時のレイリとジニーの姿が写っていた。ジニーは愛らしく微笑むと、レイリと腕を絡ませてこちらに手を振ってくる。レイリは、写真の中の自分と目が合うと、げんなりとした気分になった。

昼食も半ばを過ぎた頃、ハーマイオニーが大広間にやってきた。それに気付いたモリーは、いつもと違う堅い声で挨拶をすると、すかさずハリーが「リータ・スキーターのあのバカな記事を本気にしたりしてませんよね?」と言って、事無きを得た。

20160814
20160822加筆
[top]