万物流転 | ナノ
19.引き金は衣嚢に6
サスケが師であるカカシ宅を飛び出した頃、ナルトは彼がエロ仙人と呼び慕う、天才忍者・三忍の自来也に連れられて木ノ葉の里から少し離れた歓楽街へ向かっていた。

「ねえねぇ、ねえねぇ!エロ仙人!一体今度は、どんな術教えてくれんのォー!?この前は、水面歩行術だったからァ〜…今度は、炎上歩行かぁ?――それとも、空中歩行…? なあなぁ!早く教えてくれってばよ!エロ仙人!」

歩く自来也の周りをちょろちょろと、まるで子犬のように駆け回りながら口を閉じていることを知らぬようにナルトは一息で囃し立てた。自来也と言えば、ナルトが余りにも自分のことを『エロ仙人』などという不名誉な(彼に取っては、ある意味では名誉のあるかもしれない)名称で呼び、それを連呼するものだから、若干の疲弊を覚えながらじと目で彼にこう告げた。

「エロ仙人、エロ仙人ってなぁ…お前、ワシがすっごい人だって知らねーだろ…?」

「え?…すっごいエロ仙人?」

そう返された自来也は、頭にタライを落とされた時のような心境になりながらも、気合いを入れて、歌舞伎を真似た口調と節で大袈裟に自己紹介をしてみた。

「いいか…――蝦蟇の仙人とは仮の姿!何を隠そうこのワシこそが! 北に南に西東!斉天敵わぬ三忍の、白髪童子蝦蟇使い!泣く子も黙る色男!自来也様≠スぁ〜〜ワシのことよ!」

「………ふぅ〜ん…」

自来也は己の渾身の自己紹介が不発に終わったことにガックリと両肩を落とした。そして、自分のすぐ側を通り過ぎていくまだまだ幼い教え子の、全く関心の無さそうな生返事に居たたまれなさを感じ、今し方の自分の行為を後悔した。




ナルトを見付けるため奔走するサスケは、探し人の自宅の玄関で、同じチームメイトのサクラにばったり出会った。彼女はどうやら、母親の作ったおはぎを彼にお裾分けしに来たようだ。

しかし、今のサスケにはそんなことはどうでもよく、彼の殺したい相手が――その相手と言うのが、彼の実の兄であるうちはイタチなのだが――ナルトを探していると知り、一刻でも早く彼を、ナルトを見付けなければ!と使命感に駆られていた。

そんなサスケが、ナルトが頻繁に利用すると聞いているラーメン『一楽』の店主テウチからとある情報を入手していた頃。ナルトと自来也はとある神社で休憩をしていた。

「なあなぁ、エロ仙人!」
「…んん?」

「四代目って、どんな生徒だったんだぁ?」
「まぁ…ワシの弟子だから、あれほどに成長したとも言えるが…。ワシに教えてもらえるとは――ナルト!お前、果報者だのぉ!」

ナルトは疑わしい目を自来也に向ける。その視線を受けて自来也は「疑うのか?」とそう言いつつ後方に立つナルトを振り返った。ナルトは分身しており、四人になっていた。

「良い弟子を育てるのは良い師匠。当たり前のことだろうがのぉ!」
「ならさぁ、ならさあ…エロ仙人は誰に教わったの?」

「ワシかぁ?…ワシがおそわったのは三代目だ。三代目もまだぴちぴちだったのぉ!」
「さんだいめ?ぴちぴち?」
「のぉ!ワシもぴちぴちだったぞぉ!」

その時四人のナルトは二組に分かれて肩車をしていたが、それぞれに絶叫しながらバランスを崩し一人消え、また一人消えて最終的には本体一人だけになってしまった。そしてしばらくはお互いの話をして、ここでナルトと自来也の共通点のひとつが明かされることになったが、彼らの名誉の為にここには書かないでおく。

懐かしそうに笑う自来也を見たナルトは、自分の時のことを思い出してニッコリ笑った。そして、先ほど歩きながら自来也に言われた自分はあの『四代目火影に面白いくらいに似ている』という言葉を反芻しながらスキップしてすぐ傍まで跳ねて行き、出発した。

///

ナルト達の目指す繁華街である宿場町の中にある『メロメロ通り』という何とも如何わしい名前の往来の奥から、ひとりの女性が姿を現した。艶のあるワンレンの黒髪と、身体のラインを強調した瑠璃紺色のタイトドレスに身を包んだ彼女。首もとには赤い石の首飾りが光っており、細く括れたウェストには金属製のベルトが巻かれ、その細さとしなやかさを際立たせていた。

彼女が歩いていると、足元に小石が転がってきて爪先に当たった。不思議に思って小石が転がってきた方向を見ても、そこには特に気になるものもなく、いつもの風景が続いており、居酒屋や宿屋、賭博場などが犇めく狭い通路を人々が疎らに歩いているだけであった。

彼女は数回の瞬きのうちに、誰かが偶然蹴った小石が自分のところに来て、それがたまたまヒールの爪先を叩いたのだろうと考え、再び歩き出す。彼女はもう、足下の小さな石なんて見てはいなかった。

彼女はこの辺りの店で客引きとして働いている女だった。彼女のように、ボディコンを着こなし、愛想と色気を振りまいては、男性客を掴まえ、ぼったくりの様な値段の酒を飲ませて収入を得るという水商売をする女性達は、この宿場町では少なくはない。

そんな夜の華を求めてやってくるのが男達だ。中にはもちろん、自来也のような変態ドスケベもいる。ここは、里が出来てから宿場町として栄えてきた場所である。今では悪質な風俗店も横行しているが、情報収集のためにはもってこいの場所なので、黙殺されている面もある。

そんな夜に華やぐ街の様子を見て、頭上の『ファンファン通り』の文字や『酒』そして『女』という漢字の連なる看板の数々に、繁華街の門を潜ったナルト少年は「なんか怪しい町だよなぁ…」という印象を抱いていた。

「ナルト…今日は、ここに泊まるぞ!」

しばらく道なりに歩き、見慣れない景色にナルトがきょろきょろしていると、彼の知らない間に話を付けた自来也が、ひとつの宿屋の受付の前に立っており、そう声を発した。ナルトは宿屋の入り口にある朱色に黒で顔のような絵の描かれた提灯がくるくると回転しているのに目を奪われながら、返事をして彼に近寄って行く。

「でも、エロ仙人!オレはまだまだ歩けるぞ!」
「弟子は師匠に従えっつの!」
「オレはただ術を教わりたいだけだってばよ!」
「それを弟子っつうんだ!」

しかし、そこで自来也が何かを見付けて目を開いたので、その視線が気になったナルトが後ろを振り向くと、そこには――黒髪に、瑠璃紺色のボディコンを着た色気満載の女性が立っていたのである。

20140306
title by 207β
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