万物流転 | ナノ
63.ほんとは3
午後の授業を終えて、セドリックと一緒にこれからの打ち合わせを歩きながらしていたら、何故かハリーたち後輩組に捕まった。何か約束をしていただろうかと思い巡らしてみても、私はそのようなことをした覚えがなかったので頭の上には疑問符でいっぱいだ。

そして、ハーマイオニーがおずおずと言った様子で言った。「私たちに呪文をレッスンしてください」と。セドリックはそういうことならと快諾して「一緒に呪いを練習しようか」と爽やかな笑顔と共に三人組を誘った。

まぁ、確かに私たちは空き教室を使って、迷路の障害物を抜ける為の呪文の特訓をしようと思っていたけどね。「ほんとですか!」とぱぁっと嬉しそうに微笑んだハーマイオニーだったが「…ご迷惑じゃないですか?」と不安げに尋ねてくる彼女の姿に、首を立てに振るしか出来なかった。

後輩の頼みには弱い私である。その日は「失神の呪文」や「武装解除呪文」の手解きをすることになった。どうやら、シリウスからの手紙に、私に教わる様に書いてあったようだ。

私はそれを聞いて、がっくりと心の中だけで項垂れた。私があれだけヘカテーを臭わすなとお願いし続けているにも関わらず、あの人は…!

シリウスに対する若干の憤りはあったが、ハリーとロンの生存率を上げる為に私は努力を惜しまなかった。その日の夜、いつもの報告書のついでに、リーマス経由でシリウスへの警告のお手紙を出したのは仕方ないと思う。

セドリックとは、ハグリッドの好のみや『魔法生物飼育学』で取り扱った魔法生物についてリストアップして、好物と弱点についてそれぞれ図書館で手分けして調べた。知ってはいたが、ハグリッドは一般的に危険であれば危険であるほど、その動物を好きになるという傍迷惑な傾向にあることが分かった。

「さすがにドラゴンはないと思うけど…」
「まだ時間に余裕があるからね。結膜炎の呪いが命中するように練習のメニューに加えておくよ」

***

ハリーが、月曜日にトレローニー教授の『占い学』で、額の傷を押さえて倒れたという噂が耳に入り、彼が今どのような状態なのかを知りたくて、急いで教室から切り上げて談話室へ戻った。

しかし、そこにハリーの姿はなく、ハーマイオニーとロンが隅の机で宿題をしているだけだった。二人に尋ねても、ハリーは医務室へも行っていないらしい。彼はどこへ?もしかして、校長先生のところ?

私は、二人にリーマスの返信(あの駄犬を厳しく躾けるしかないね≠ニ書いてあった)に同封してあったプレゼントのチョコレートを手渡して、女子寮へ引っ込んだ。鞄を下ろして机に向かっていると、アンジーとアリシアが帰ってきた。

「ハリーどうだったって?」
「まだ帰ってきてないみたいなのよ…」

質問してきたアンジーに答えながら、特殊なインクで報告書をまとめて行く。「地下牢通いを止めたかと思えば、急に手紙を書き出したりして…あなたは誰と文通してるの?」とアリシアが背中から覗き込んできた。

「まさかスネイプとか言い出すんじゃ…」
「や、それはないよ。安心してアンジー、アリシア」

まさか、私とスネイプ教授がペンフレンドであるはずがなかろう。私はさっと封をして席を立った。夕食までには戻ると伝えて、梟小屋へ向かう。本音は、あそこへは近寄りたくはないんだけど…。梟襲撃事件のトラウマが一々ちらつくのだ。

梟小屋の階段を最上階まで上り切り、戸に手をかけようとした丁度その時、内側からバーンと開いて危うく、そんなに高くもない鼻がもっと高くなくなるところだった。私は、皮膚の下で激しく脈打つ心臓を落ち着けながら、開かれた戸の奥を見た。

「びっ!びっくりした…」

「なっ!そりゃ、こっちの台詞だぜレイリー」
「というより、お前が進んで梟小屋に来るなんて珍しいな」

まさかこんなところでフレッドとジョージに出くわすなんて予想もしていなかった。私は、ローブのポケットに封筒を押し込んで「私だって梟便を利用したい時だってあるのよ」とジョージに答える。

なんだか怪し気な雰囲気の二人は、ここで悪戯の打ち合わせでもしていたのだろうか。やけに静かな双子は、敷居を跨いで外に出て行くと「んじゃ、俺たち先に寮もどってるぜ」と手をひらひらさせて階段を下りていこうとする。

「せいぜい梟に襲われないように気を付けろよ」
「え、あ…もちろん。そのつもりよ…ジョージ」

何だかあっさりと行ってしまった二人を見送り、私は意を決して小屋に入った。そして、自分に手紙を運ばせろアピールをしてくる梟達の突撃に耐えながら、なんとか一羽の梟の足に手紙を括り付けると、私は急いでこの場を後にした。

20160612
20160620加筆
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