万物流転 | ナノ
62.ほんとは2
四人は、暗い芝生をクィディッチ競技場へと歩き、スタンドの隙間を通ってグラウンドに出た。滅多なことがない限り、このグラウンドには立ち入らないレイリは、暗がりの中キョロキョロとしてしまう。

「いったい何をしたんだ?」

セドリックが憤慨してその場に立ちすくんだ。レイリは、彼のすぐ後ろを歩いていたので、彼が何に対して怒っているのか分からなかった。ハリーが「生垣だ!」と言った。

その声に、セドリックの背中からひょこりと顔を覗かせれば、そこには平らで滑らかだったピッチはなかった。あるのは、長くて低い壁を張り巡らしたように、四方八方に入り組み聳えたつ生垣だった。

「え、なにこれ…」

レイリが驚いて固まっていると「よう、よう」と元気な声がした。その声の主は、ルード・バクマンだった。彼は、この暗がりでも見える派手な色の服を来て、ピッチの真ん中に立っていた。その近くには、クラムとポリアコフ、フラーとガブリエルが到着している。

ちらりと目が合ったクラムにレイリが挨拶をすると、こくりと頷きのような挨拶が返ってきた。ハリーとロンが来ると、フラーがハリーに笑い掛け、ガブリエルはロンをポーッと見つめている。

レイリは、そのガブリエルの視線の意味になんとなく気付いてしまったので口角が緩む。含んだ笑みを浮かべている彼女に静かに近付いてきたフラーが「この子、惚れやすいでーす」とこっそり耳打ちをしてきた。どうやらレイリの読み通りらしい。

「しっかり育っているだろう?あと一ヶ月もすれば、ハグリッドが六メートルほどの高さにしてくれるはずだ」

バグマンは、ハリーとセドリックが気に入らないという顔をしているのを見て取って、ニコニコしながら「心配ご無用!」と片手を前に突き出して、大きな手振りで話を続ける。

「課題が終われば、クィディッチ・ピッチは元通りにして返すよ!さて、わたしたちがここに何を作っているのか想像できるかね?」

彼の質問に即答で答えた者はなく、クラムが「迷路」と唸るように言った。どうやら彼も、クィディッチのピッチをこんな風にして利用することに抵抗があるようだ。バグマンは「その通り!」と明るく言った。

「迷路だ。第三の課題は極めて明快だ!迷路の中心に三校対抗優勝杯が置かれる。最初にその優勝杯に触れた者が満点だ」
「触れるだけ…? その優勝杯とやらに触れるだけでいいのですか?」
「そうとも!選手と助手が、バディで協力し迷路を抜けて優勝杯の元へ辿り着く。そして触れる! 触れたらどうなるかは…優勝者のみぞ知るお楽しみだ」

バグマンは、両手を擦り合せて笑みを深くした。「迷路をあやく抜けるだーけですか?」と今度はフラーが尋ねた。彼は「障害物がある」と嬉しそうに体を弾ませながら言った。

「ハグリッドがいろんな生き物を置く…それに、いろいろ呪いを破らないと進めない。…まぁ、そんなとこだ」

ホグワーツの生徒にとって、ハグリッドがこのようなイベントにどんな生き物を設置してきそうかなどということは、それこそ単純明快だった。ロンに至っては、ハグリッドが学生時代、ペットとして飼っていた巨大蜘蛛のアラゴグを想像して顔を青くさせている。

「さて、あと説明をしておかなければならないのは、スタートの仕方だな。今回の課題のスタートはこれまでの成績でリードしている選手が先にスタートして迷路に入る。しかし、全員に優勝のチャンスはある。障害物を二人で協力し、どううまく切り抜けるか、それ次第だ。おもしろいだろう、え?」

ハリーもレイリも、とても面白いとは思えなかった。しかし、フラーやクラム、セドリックという代表選手らが礼儀正しく頷くのを見て、二人もそれに従った。ロンだけは、頷く余裕さえなかったが。

「よろしい…質問がなければ、城に戻るとしようか。少し冷えるようだ…」

バグマンは、皆が育ちかけの迷路を抜けて外に出ようとすると、ハリーと話したそうに近付いてきていた。しかし、デラクール姉妹がハリーとロンに駆け寄っていくのが先で、彼はハリーに話しかけるチャンスを失った。

「なんだか、今夜のハリーは人気者だね」

レイリが生垣を越えるのに手を貸していたセドリックは、彼女が自分の傍に着地したのを確認してからハリーの方を見て呟いた。ちらりとレイリが視線を走らせると、ガブリエルに抱きつかれているロンの奥に、フラーと談笑するハリーの姿が見えた。

それに、どうやらハリーに話があるのはバグマンだけではないらしい。クラムは、助手のポリアコフを先にダームストラングの船に戻らせると、じっと睨むようにハリーを見ているのである。

「クラムもハリーと話がしたいみたいだよ」
「うん…でも、あの視線は話がしたいっていうよりは…」
「…少し攻撃的かな?」

それから二人は、すっかり暗くなった校庭を横切って城へ向かった。レイリは平気だと断ったが、何かに躓いて転んでしまったら危ないからと、セドリックは彼女の手を離さなかった。

レイリが心の中で『流石、英国紳士セドリック』と思っていたのは彼に内緒であるが、この暗闇の中で彼女の目に見えなかったが、セドリックの耳が赤く染まっていたのはレイリに秘密である。

20160612
20160805修正
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