万物流転 | ナノ
61.ほんとは
イースター休暇までの時間は緩やかに流れていった。もちろん、沢山の勉強をこなさなければならなかったし、レポート課題もたっぷり出されたが、レイリはもう一人でいることはなかった。

造っていたある薬が完成すると、地下牢通いも止め、放課後の時間を同じ寮の友人達と大切に過ごした。そして数日後の彼女の元に、こんな手紙が梟便で届けられた。

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Dear Hecate
こんなに嬉しかったのは、ホグワーツへ入学出来ると知った時以来だよ!
私のために、君の貴重な時間をさいてくれて、どうもありがとう。本当は、直接君に会ってお礼を言いたい所だけど、それが出来ないのが口惜しくてたまらないよ。君が調合してくれた薬は、今までのものよりずっと飲みやすいよ。それに、満月の日も私は自分が人であることを覚えているんだ。
君は、私たちになぜこれほどまで良くしてくれるのかな?私にできることがあれば、何でも言ってほしい。その時はきっと君の力になろう。恩人の君のためなら、何でもしてあげたいんだ。パットフットも同じ気持ちだよ。
With all my love.
Moony


追伸
友人とは仲直りはできたのかい? 君にいろいろあったらしいという話は、パットフットを通じて知っているけれど、辛いなら私が力になるよ。一人で抱え込まないで! 君は素敵なひとだから。


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レイリにはまだ、解決すべき問題が残されていたが、以前よりもそのことについて悩む回数が減っていることを、彼女本人も自覚していなかった。これも、ひとえに彼女の周りにいる友人達のお陰なのだが、それは一先ず置いておこう。

さて、イースター休暇が終わってからやっと戻ってきたハリーの白い梟ヘドウィグは、モリーからのお手製イースター卵を運んできた。中にはぎっしりとヌガーが入っており、食べると上の歯と下の歯がくっ付きそうになった。

男の子たちのはドラゴンの卵ほど大きく、女の子たちのはハグリッドの拳くらいの大きさだった。しかし後輩三人組は、ヘドウィグが運んできた手作りの卵よりも、その包みの中に入っていたパーシーからの返事(短くて苛々した調子だった)に興味津々であった。

夏学期が始まった。いつもならシーズン最後のクィディッチ試合に備えて、レイリの友人達やハリーは猛練習をしている時期であったが、今年は三大魔法学校対抗試合の最終課題のため、クィディッチは今学期中止となっている。

「そういや、そろそろだよな」
「「え、何が?」」

双子が声を揃えて首を傾げるので「何がって、課題の内容が告知されるのがだよ」と、リーは額を押さえて言った。双子は納得がいったようにポンと掌を叩いた。「第三の課題は…六月二十四日の夕暮れ時だったっけ?」とアリシアがレイリに聞くので、彼女は頷いて言った。

「代表選手とその助手は、そのきっかり一ヶ月前に課題の内容を知らされることなってるわ」

その言葉を受けて「じゃあ、今週告知ね」とアンジーが言う。今週は、何を隠そう五月の最後の週なのである。そしてやっと、セドリックとレイリは「薬草学」の授業後に呼び止められ、スプラウト教授から話を聞いた。

「ディゴリー、ウチハ。今夜九時に、クィディッチ競技場に行ってらっしゃい。そこで、バグマンさんから第三の課題についての説明があります」
「分かりました」

その日「薬草学」が最後の授業だった二人は、そのままの足で大広間へ向かった。いよいよ最後の課題である。これを乗り切れば、この大会も終了だ。レイリは優勝にこだわっている訳ではないので、終わりが見えてきたことに少しだけ嬉しくなっていた。

セドリックは、自分のすぐ隣りを歩いているレイリをじっと見つめていたが、彼は何も言わずに黙って歩いた。今ではごく一部のスリザリン生が、彼女の姿を認めるとヒソヒソと話すくらいで、大広間での彼女が仕出かしたあの一件は熱りも冷めてきたが、彼が彼女の身に起こったことを知らない訳がなかった。

そのことについて、思慮深い彼は、自分が出しゃばるべきところではないとして、彼女とその友人達を見守るまでに止めていた。だが、彼自身も彼女のことを心から心配して気に掛けていたひとりである。そのことを今になって敢えて口に出すことは憚られたので、彼は彼女の隣りを黙って歩くしか他はなかった。

セドリックは、レイリにクィディッチ競技場まで一緒に行く待ち合せの約束を取り付けると、ハッフルパフの長テーブルについた。レイリも、先に大広間へ来て喋っているいつものメンバーの姿を見付けて、彼らの方へ歩いていった。

「スプラウト先生、何だって?」
「この後二十一時から、クィディッチ競技場で説明があるってことを知らせていただいたのよ」

食事を終え、一旦寮に引き上げて荷物を片付ける。レイリは、同じ部屋のアンジーやアリシアと時間まで宿題をしたりお喋りをしたりして過ごした。談話室を出る時、双子とリーに見送られ彼女は太った婦人の絵画の裏の穴を通って寮の外に出た。

玄関ホールには、すでにセドリックが到着していた。レイリが駆け寄ると、彼は嬉しそうな顔をして片手を上げる。「ごめん、待たせちゃったみたいね」と言えば「いや。待ってないさ。友達に早く行けって急かされたんだよ」と彼は苦笑いを零した。

「ねえ、レイリ。今度はなんだと思う?」
「そうね…最終課題はさすがに二人で行うものだと思うけれど…」

レイリは「箒が必要になったら、私のこと頼むわね」と冗談めかして言うと「もちろんさ」とそれに答えてセドリックは微笑んだ。そこへ後からハリーとロンが来て、彼らも第三の課題が何であるかという会話に加わった。

「ハリー達はなんだと思う?」とセドリックは石段を下りながら、彼らに話を振る。先に答えたのはロンで「うーん…僕は、ドラゴンとかクモじゃなきゃいいなって思ってる」と言いつつ首の裏を掻いた。外に出ると、曇り空だった。

「フラーはね、地下トンネルのことばかり話すんだ」
「地下トンネル?」
「宝探しをやらされると思ってるんだよ」

「それならいいけど」と言いつつ、ちらりと隣りを歩いているロンを見て急に気遣わしげになったハリーに、セドリックは不思議そうな顔をした。レイリは、ハグリッドの授業で扱ったニフラーのことが頭を過った。

20160612
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