万物流転 | ナノ
60.ともだち4
Lee side

「おまえってあんま自分のこと話さねぇけどよ、オレらはもっと知りたいんだぜ?」
「もちろん、もっとレイリに私たちのことを知ってほしいし話したい!」

足を止めてオレがそう言えば、後に続いたアリシアが、レイリの肩にそっと手を置いて微笑みかけた。彼女はぎゅっと唇を噛んでいる。涙を堪えようとしているらしい。気丈だねぇ。でも、堪えてるとこ悪いけど、オレらはもう、おまえに遠慮するつもりねーから。

「そろそろオレたちを、レイリの隣りに立たせてくんねぇか?」
じっと、レイリの目を見つめながらオレは伝えた。

「バレてないと思ってただろ?」
続いてフレッドが繋いでいた手を放し、一歩前に出てレイリの顔を覗き込む。

「でも大間違いなんだなー!」
更にジョージも彼女の手を放してオレの隣りに並んだ。

「なにを…」と呟いたレイリ声が震えているのが聞こえる。

「おかしいと思ってたんだよ。あの時だって杖持ってなかったし」とフレッドが言うと、つられてジョージが「チャーリーがクィディッチの練習で怪我した時も」と言う。怪我という言葉で思い出すことがあったフレッドが、更に「ハーマイオニーの怪我もあっという間に治しちまうし…」と言った。

柄にもなく、今オレは真剣な顔をしてると思う。それは、ここにいる他のやつらも同じだ。レイリという、友達を繋ぎ止めるために、オレら五人は必死になってる。顔を見なくても、纏う空気で分かっちまう。

アリシアとアンジーからの視線を受けて、オレはゆっくりと口を開いた。これから、おまえの最高機密に踏み込んでいく。ああ、おまえは今、不安で一杯なんだろう。そんな顔はさせたくなかった。

「レイリのあれは、ただの魔法じゃない。…そうなんだろ?」

核心に迫っていくオレの言葉に、彼女は両手を強く握り締めた。それ見ていたジョージが「あいつらからも聞いたよ。秘密の部屋にジニーが連れ去られた時、レイリが応急処置してくれたって」と、落ち着かせるような柔らかい声で語る。

「レイリよ…おまえ、」クィディッチ杯の実況では、こんなに口の中の渇きを感じたことはない。オレは、意を決して言葉を絞り出した。

「特別な力を使ったんじゃねぇの」

オレらを周りの空気が、ピィンと張り詰めた。耳が痛いほどの沈黙の後、アンジーが「それに…第一の課題の時だってそうよね」と言った。そしてアリシアも「暴れ出したドラゴンの動きを止めたのだって、レイリの仕業でしょ?」と尋ねる。

「あの時、いつもの黒い目じゃなかった…!」とアリシアが言うのを聞くと、レイリはほとほと困り果てたような顔をして、口を真一文字に結ぶ。まるで、自分自身の失敗に言い訳を漏らさないようにするみてーにな。

「見間違いじゃなかったらだけど、おまえの目…」

オレが第一の課題の時に、一瞬だけセドリックを庇うように飛び出してきたレイリのドラゴンを睨んだ目が赤く染まっていたのを指摘すると、彼女はその双眸を零れんばかりに見開いた。

「みんな…なんで、それ……黙って、」

震える声を隠さず、レイリは零すように尋ねた。オレらは別に、隠し事のあるおまえを責め立てたい訳じゃないんだ。ああどうか、そんな顔をしないでくれ。遠慮はしないと決めたオレらであるが、彼女の見せる初めての涙に、その決心が揺らぐ。

だが、ここで引いてしまっては、もう一生レイリの核心に踏み込むチャンスを逃してしまうかもしれない。そうなれば、オレらとレイリは、この先ずっと心の底から交わらないまま平行線で終わっていってしまう。そんなのは、ここにいる全員が嫌に決まってる。

無理に聞き出すのは、やっぱ違うと思う。でも、心のどっかで、本当の意味でこいつと繋がりたいと思っちまうんだ。レイリ、おまえもオレたちに秘密を暴かれかけて苦しいかもしれねぇ。だけどな、オレたちだって、苦しいんだ。その気持ちを、どうか、分かってくれねぇか…?

心中は五人とも苦いに決まってる。遠慮はやめた。我慢もやめた。だけど、レイリの心を抉じ開けようと、彼女の中に無理やり踏み込むことを、彼女は本当に望んでいるのか。その逡巡が、オレらをあと一歩の所で踏み止まらせる。すると、真剣な表情を緩めたジョージが口を開いた。

「辛いときとか苦しいときに、一緒にいてやるのが友達だろ?」

優しい微笑みだった。そのジョージの横顔を見て、オレらの切羽詰まって尖っていた気持ちも、丸く安らいでいくのが分かる。

「笑うのだって、泣くのだって、レイリとなら共有したいの」

目を潤ませたアリシアがそう言えば、レイリはとうとう、はらりと涙を一滴溢れさせた。

「僕たちはレイリのことかけがえのないやつだって思ってるけど」
「おまえもそうだろ?なっレイリー」

ジョージとフレッドが、まるで小さな女の子みてーに泣き出したレイリの肩を抱いて言っている。こくんこくんと頷くレイリを見て、アリシアとアンジーも泣いていた。双子は念願かなったりといった、満足そうな顔をしている。オレは、その五人の姿を見て、ちょっとだけ泣いた。

レイリ、ほらな。
おまえは、受け入れられる存在なんだぜ。

20160612
title by MH+
[top]