59.ともだち3
こんな細っこいからだで、こいつは何をひとりで抱え込んでんのかねぇ。手首なんて男のオレがえいと力を加えれば簡単に手折ることさえできそうなほど、白くて頼りないのに。なぁ、レイリ。
「レイリつっかまーえた!」
「なっ!フレッド、ジョージ!…どうしてここに」
おまえはあんまり自分のことを他人に語って聞かせないけどよ、オレらはもうずっと、おまえに興味津々なんだぜ?それなのに、おまえときたら…ちっとも自分から、おまえの人となりを発信してこようとしねぇんだもんな。何をそんなに怖がってるんだか…。オレらは、お前を受け入れる準備なんて、とっくにできてるのによ。
「レイリの行動パターンなんてお見通しだっての」フレッドのしてやったりという顔が目に浮かぶ。「僕ら何年、一緒にいると思ってるの?」ジョージが浮かべている呆れ顔だって見えなくても分かる。
「どうせこっそり寮に戻ろうと思ってたんだろ?」とフレッドが尋ねると、図星を突かれて怯んだのか、レイリは少しの沈黙の後、ゆっくり口を開いた。
「私といたら、あなたたちまでからかわれるわよ」
ほらな。またそんなこと言って、自分を守ろうとしてる。オレは廊下の奥から聞こえてくる三人の会話に閉じていた目を開いた。そして、ようやっと壁に付けていた背中を浮かして歩き出す。
おまえのそういうオレらを退けようとする言葉の裏の本心を見抜けねぇほど、オレの目は濁っちゃいねーよ。「そんなことどうってことないから」と少し怒ったようなジョージの声が聞こえた。
ま、そういう良く言えば控えめで、悪く言えば消極的なやつってのがレイリのレイリらしさだって、思わないこともねぇけど。オレの周りのやつらは自己主張の強いやつらばっかだからな。そこにレイリが埋もれないように、オレはずっと見てきたんだ。ずっとな。
「火を噴く女といたら燃やされるってか?」
知らなかったろ?オレらがおまえの触れられたくないと思ってることに踏み込もうと計画を立ててたこと。右手をジョージ、左手をフレッドに繋がれているレイリの、潤みのある黒曜石のような目が大きく開かれる。
「オレたちには関係ねぇな」
「…あなたまで、どうして」
おまえ自身、上手く隠し通してるつもりだったろうが、四六時中おまえと過ごしてきたオレたちの目を欺くことはできねぇよ。だって、オレらはおまえにぞっこんなんだから。
「君は最高さ!」「チャーリーなら、きっともっと見せてくれって言ったと思うな」と双子は相次いでレイリに伝える。左右から微笑みかけられ、どうしようもなくなったレイリは視線を足元に下げるしかなくなった。
「君がどんなにクレイジーだったとしても、俺らにとってのレイリは、たったひとりの大切な友達だ」俯いた彼女を見ないで、真っ直ぐ廊下の先を見つめながらフレッドは言った。オレは、その三人の少し前を歩きながら、彼女の肩がピクリと揺れるのを見た。
おまえさぁ、少しは自信持てよな。オレらにとって、おまえはもうすでに、世界でたったひとりの大切な友達なんだよ、レイリ・ウチハ。同じ寮の同級生っつー関係性だけじゃ、語り尽くせねぇ思いがあんだよ、ここにな。
「人にどう思われようが関係ねぇだろ?」
オレらがそう、思ってんだから、いいじゃねーか。おまえはもっと、気楽になれよ。そんで、おまえが抱えてる秘密を、オレらに吐いちまえっての。あんなぽっと出のルーピン先生が、お前の悩みの真相に近付いてるなんて、そんなの、虚しいじゃねぇか…。
おまえは周囲の奴らに線引きして、ある一定の領域に他者を踏み込ませないようにしてきたよな。その線引きに勘付いたのは多分オレが一番最初だぜ。伊達におまえの兄貴面してねぇよ。
もちろん、なんでそんな風にして人付き合いをしなくちゃなんねぇのかって疑問はあったし、本当の意味で心から打ち解けようとしないおまえに憤りと寂しさを感じたことがあったのは認める。でもそんな怒りは、今となってはどうでもいい。そんな些細なことは、問題じゃない。
「倒れるまで無理するなって、いつも言ってるのに!もう!…レイリには頼りないかもしれないけど、私たちのこともっと頼ってよ」
「私はレイリが好きだよ。もちろん、ここにいる皆もそう」
その線引きが、保身のための境界線だって気付いたのは、ちょっと悔しいが、廊下の先の明るい所に立って、おまえを待ってた女性陣だけどな。アリシアもアンジーも、男のオレとは違って、女子寮で部屋も同じで共有する時間が長かったし、そういう機微を察する能力が女の方が高いんだ。
20160612
title by MH+
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こんな細っこいからだで、こいつは何をひとりで抱え込んでんのかねぇ。手首なんて男のオレがえいと力を加えれば簡単に手折ることさえできそうなほど、白くて頼りないのに。なぁ、レイリ。
「レイリつっかまーえた!」
「なっ!フレッド、ジョージ!…どうしてここに」
おまえはあんまり自分のことを他人に語って聞かせないけどよ、オレらはもうずっと、おまえに興味津々なんだぜ?それなのに、おまえときたら…ちっとも自分から、おまえの人となりを発信してこようとしねぇんだもんな。何をそんなに怖がってるんだか…。オレらは、お前を受け入れる準備なんて、とっくにできてるのによ。
「レイリの行動パターンなんてお見通しだっての」フレッドのしてやったりという顔が目に浮かぶ。「僕ら何年、一緒にいると思ってるの?」ジョージが浮かべている呆れ顔だって見えなくても分かる。
「どうせこっそり寮に戻ろうと思ってたんだろ?」とフレッドが尋ねると、図星を突かれて怯んだのか、レイリは少しの沈黙の後、ゆっくり口を開いた。
「私といたら、あなたたちまでからかわれるわよ」
ほらな。またそんなこと言って、自分を守ろうとしてる。オレは廊下の奥から聞こえてくる三人の会話に閉じていた目を開いた。そして、ようやっと壁に付けていた背中を浮かして歩き出す。
おまえのそういうオレらを退けようとする言葉の裏の本心を見抜けねぇほど、オレの目は濁っちゃいねーよ。「そんなことどうってことないから」と少し怒ったようなジョージの声が聞こえた。
ま、そういう良く言えば控えめで、悪く言えば消極的なやつってのがレイリのレイリらしさだって、思わないこともねぇけど。オレの周りのやつらは自己主張の強いやつらばっかだからな。そこにレイリが埋もれないように、オレはずっと見てきたんだ。ずっとな。
「火を噴く女といたら燃やされるってか?」
知らなかったろ?オレらがおまえの触れられたくないと思ってることに踏み込もうと計画を立ててたこと。右手をジョージ、左手をフレッドに繋がれているレイリの、潤みのある黒曜石のような目が大きく開かれる。
「オレたちには関係ねぇな」
「…あなたまで、どうして」
おまえ自身、上手く隠し通してるつもりだったろうが、四六時中おまえと過ごしてきたオレたちの目を欺くことはできねぇよ。だって、オレらはおまえにぞっこんなんだから。
「君は最高さ!」「チャーリーなら、きっともっと見せてくれって言ったと思うな」と双子は相次いでレイリに伝える。左右から微笑みかけられ、どうしようもなくなったレイリは視線を足元に下げるしかなくなった。
「君がどんなにクレイジーだったとしても、俺らにとってのレイリは、たったひとりの大切な友達だ」俯いた彼女を見ないで、真っ直ぐ廊下の先を見つめながらフレッドは言った。オレは、その三人の少し前を歩きながら、彼女の肩がピクリと揺れるのを見た。
おまえさぁ、少しは自信持てよな。オレらにとって、おまえはもうすでに、世界でたったひとりの大切な友達なんだよ、レイリ・ウチハ。同じ寮の同級生っつー関係性だけじゃ、語り尽くせねぇ思いがあんだよ、ここにな。
「人にどう思われようが関係ねぇだろ?」
オレらがそう、思ってんだから、いいじゃねーか。おまえはもっと、気楽になれよ。そんで、おまえが抱えてる秘密を、オレらに吐いちまえっての。あんなぽっと出のルーピン先生が、お前の悩みの真相に近付いてるなんて、そんなの、虚しいじゃねぇか…。
おまえは周囲の奴らに線引きして、ある一定の領域に他者を踏み込ませないようにしてきたよな。その線引きに勘付いたのは多分オレが一番最初だぜ。伊達におまえの兄貴面してねぇよ。
もちろん、なんでそんな風にして人付き合いをしなくちゃなんねぇのかって疑問はあったし、本当の意味で心から打ち解けようとしないおまえに憤りと寂しさを感じたことがあったのは認める。でもそんな怒りは、今となってはどうでもいい。そんな些細なことは、問題じゃない。
「倒れるまで無理するなって、いつも言ってるのに!もう!…レイリには頼りないかもしれないけど、私たちのこともっと頼ってよ」
「私はレイリが好きだよ。もちろん、ここにいる皆もそう」
その線引きが、保身のための境界線だって気付いたのは、ちょっと悔しいが、廊下の先の明るい所に立って、おまえを待ってた女性陣だけどな。アリシアもアンジーも、男のオレとは違って、女子寮で部屋も同じで共有する時間が長かったし、そういう機微を察する能力が女の方が高いんだ。
20160612
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