万物流転 | ナノ
57.ともだち
目が覚めた時、見慣れない天井に飛び起きた。周囲を見渡すと、そこがホグワーツの医務室であることが分かった。しかし、なぜ自分がここのベッドで寝ていたのかが全く思い出せなかった。

体はどこも痛むところがなく、マダム・ポンフリーが処置をしてくださった形跡も見当たらない。昨日の夜は、確かコンラッドにお願いされて見回り当番を交代したはずだ…。

しかし、寮を出てからのことを思い出そうとすると、変に頭に靄がかかり事実がどうであったかが分からなくなる。「おや、起きていたのですか」するとそこに校医が食事を持ってやってきた。

食事を受け取りながら、昨晩の私がどうやってここに来たのか尋ねれば、驚いたことにアラスターが私をこちらに運び込んだと言うではないか…!俄に信じられない教授の行動に、私は次の言葉が聞けなかった。

『彼はその時どんな様子でしたか?』面倒くさがっていた?慌てていた?廊下で倒れたことに呆れていたかもしれない。それとも、体調管理もできない私を怒っていたかもしれない。しかし私はその疑問を全て飲み込んだ。

マダムは、私にきちんと休養するようにお小言を言うと私から離れて行った。腫れが引いた後頭部だったが、まだ少し頭が痛んだし、曇り空のようになんだかすっきりしない気分だった。

何か忘れていることに気付けただけ、まだましだと思えばいいのかもしれないが、そうは思えなかった。何か重要なことが、昨晩あったような…?そんな漠然とした思いがある。

目を閉じると、鈍色の何かが脳裏を掠めていった気がした…。

***

私はこの時、自分が、あの夜、邂逅した男に関する記憶をごっそり失っていることに気付くことができなかった。加えて、自分のことで手一杯になり、関わりを避け続けていたからこそ、友人達の決心にも気付けなかった。

アンジー、アリシア、リー、フレッド、そしてジョージ。
彼らが何を打ち合わせし、そして何を共有し誓ったのか…この時、何も知らなかった。

自分が夜の見回りの最中に倒れて医務室のお世話になるまで、彼らに隠していた秘密が知られていたことを一切気付けなかった。――レイリが双子に捕まったのは、校医から退院の許可を貰ったその日の夜のことである。




「レイリつっかまーえた!」
「なっ!フレッド、ジョージ!…どうしてここに」

完全に気を抜いていた。友人達は、私が彼らを寄せ付けなかったので、変に付きまとったりせずに、必要最低限の関わりで済ませていたのだ。だから私は、まさかここで二人に出くわすとは思っていなかったのである。

「レイリの行動パターンなんてお見通しだっての」
「僕ら何年、一緒にいると思ってるの?」

フレッドのにやりとした笑み。久し振りに見た気がする。ジョージは呆れたように言ってきた。後ろから私の腕を取り押さえているフレッドは「どうせこっそり寮に戻ろうと思ってたんだろ?」と私の図星を突いてくる。よくお分かりで…。

「私といたら、あなたたちまでからかわれるわよ」

汚い汚い。また私は彼らのためを思うような言葉を吐いて自分を守る。私は逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。正面に居るジョージが、私の右手を取って言った。「そんなことどうってことないから」すると、腕を掴んでいたフレッドが私の横に来て左手を握って誰かを呼んだ。

「火を噴く女といたら燃やされるってか?オレたちには関係ねぇな」
「…あなたまで、どうして」

私たちの進行方向。廊下のほんのちょっと先に十字路があって、その左のコーナーからもう一人が現れた。

20160317
20160612加筆修正
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