万物流転 | ナノ
54.こうかい3
私が大広間で文字通り火を噴いてから早いもので一週間が経とうとしている。しかし、私は未だにホグワーツ中の生徒からの好奇の目に晒され続けている。周囲の生徒に関しては、朝食の席という忙しない時間帯に、私が火を噴いたことで怯えさせた自覚があり、視線はかなり鬱陶しいが致し方がない。

また、ごく一部のスリザリン生からは「よおドラゴン女!今日は火を噴き出さないのか」とからかわれる始末だ。怒りに任せて軽率な行動に出た自分に非があるから、今はその言葉を甘んじて受け入れている。

一周回って冷静になってくると、ひとつ気付いたことがある。私はどうやら、身内だと思っている後輩のことが絡むとカッとなってしまう癖があるらしい。治していかなければ、と課題に思っている。そう思っているのだが…なかなかに難しい。

あれから良かったことをひとつ挙げるならば、ハーマイオニーへの嫌がらせのメールが少し減ったことだ。今度は私に自分自身が燃やされるとでも思ったのだろうか。他の生徒達が私を腫れ物に触るように接してくるのは覚悟してたが、身内の…グリフィンドールの後輩達から怯えられるのは正直心が痛かった。

私は、あれ以来なるべく一人で行動するようにしていた。友人まであの目に晒す訳にはいかないと思ったからだ。女子寮でも話しかけるなオーラを発して、心配そうなアンジーとアリシアを退けた。図書館へ行くのも、付いて来ようとする双子を撒いたし、気遣うような視線を飛ばすリーとセドリックは、私が近寄らせなかった。

ひとりになると、リーマスのあの言葉がぐるぐると頭の中を漂う。『でもね、相応しいとか、相応しくないとかは、自分が決めることじゃないんだ』はたして本当に、自分の価値を決めるのは自分ではないのだろうか。安息の地になりつつある、地下牢の研究室で薬品の調合中に考えた。

私は、友人の彼らにとって、どういった存在なのだろうか。
私は、彼らに、私の価値を判断する決定打を放ってしまったと感じている。考えても考えても、私は所詮、外の世界の生き物だ。この世界にとっての異物である感覚は拭い去ることができない。できない…。




ひとりでいるのには慣れていたはずだった。精神訓練も過去に何度も受けきたし、ストレスやアンガーマネジメントだってできているつもりだった。

冷戦の続くアラスターが担当する「闇の魔術に対する防衛術」では、スリザリンにからかいを受け(「先生を燃やすなよ」とか「あいつ教授を消し炭にしちまうんじゃねえか?」とか)ながらも、完璧にテストに合格してみせたし、監督生の仕事も手抜かりなくこなした。

しかし、私は一杯いっぱいだった。息をつく暇もなく、無理やり自分を追い詰めて忙しくしていた。何かをしていなければ、余計なことを考えてしまいそうで…。怖かったんだと思う。今はそう思う。私が彼らを退けたのは、彼らの方から離れていくのが恐かったんだ。

だから、彼らから拒絶される前に、私は自分から、彼らを突き放したのだ。私が彼らから距離を置くことによって、彼らを好奇の目から守るというあたかも正統な理由を付けて。私が彼らを守っているという嘘を、私は自分に信じ込ませようとした。

(それは、拒絶までの猶予にしか過ぎない…)
(弱くて脆い仮初のまやかしであることには目を閉じて…)

20131216
20160317
20160612加筆修正
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