万物流転 | ナノ
16.引き金は衣嚢に3
ナルトの元へ走らせていた分身が、本体のところへと帰ってきた頃。本体のレイリは、すでに自宅に戻っており記憶の中にちりばめられたシナリオを思い出していた。椅子に座り、机に向かう本体を横目に、分身の彼女は言った。

『他の分身(子)はさぁ、まだターゲットと接触できず?』
「うん。見つけてはいるみたいなんだけど、何処かの気高き碧い猛獣さんが厄介な人達を呼んじゃったみたいでね…カカシ先輩も件(くだん)の二人組もてこずってるみたいなの」

『あぁ…あの激眉ってナルトに呼ばれてたせんせーかぁ』
「そうそう。――あの人って、漫画で見てる分には良いんだけど、実際こう…対面すると暑苦しい以外の何者でもないよ」
『ははっ…カカシせんせーお疲れじゃん』

分身は、部屋の隅に寄せてあった畳まれた布団の上にバフッとダイブする。自分の分身ながら、わざわざ埃を舞わせるようなことをしなくてもいいのに…という目を向けながら、本体は窓を開ける。どうやらこの子は、語尾を伸ばす特徴のある分身らしい。

『木ノ葉の上忍師四人と、暁の二人組のところに暗部が向かってるのは脅しじゃないよ』
『あー、お疲れぇ』

パフンッという小さな破裂音がして、部屋の襖の入り口付近にもう一体の分身が現れた。その子は、最初に帰ってきた方に『本体の前なんだから、シャキッとする!』と言って睨んだ後、机に向かう本体に向かって調べてきたことの要点だけを報告すると『それじゃ、あとは本体次第だから。頑張れ』と言い残して消えた。

『もう少しのんびりしていけばいいのにぃ…』
「きっとあの子は真面目さんなんだよ…。それと、あなたは、のんびりしすぎ」
『だってさぁ、久し振りのシャバだよぉ?満喫しないでどうするのさぁ』

己のチャクラによって生み出される分身達が何処から来るのかは、本体のレイリですら、質量保存の法則は無視ですか?と思うほどには疑問を抱いており解明できていない。しかし、どうやら彼女の生み出す分身は、彼女のチャクラによってこちらの世界に呼び出されるという召喚の作業を心待ちにしているらしい。

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木ノ葉には手付かずの自然の残る場所が多々ある。
所は変わって、そんな市街地から遠く離れた場所に、件の黒地に赤い雲を浮かべた装束の二人組はいた。木ノ葉側の助っ人の登場に「オレたちは戦争をしに来たんじゃない…残念だが、これ以上はナンセンスだ…」というイタチの発言により、潔く戦闘から手を引いた彼らは、現在与えられた任務の最終確認を行っていた。

「アナタにならどうにかこうにかやれる相手でも、私じゃあ分かりませんよ…」

そう言ったのは、大刀鮫肌≠背負った霧隠れの抜け忍で、名を干柿鬼鮫と言う。彼は大名殺し・国家破壊工作などの重罪を犯し、その容疑で水の国から指名手配をされている。肌の色は青く、髪は藍色をしており、容姿はその名の通り鮫のようで、歯が鋭く尖っている。

「次元が違う」

「あぁ…やり合えば、二人共殺されるか、良くて相打ちというところ。…たとえ人数を増やしたとしても変わらないだろう」

そんな鬼鮫に返事をしたのは、木ノ葉隠れの抜け忍で、名をうちはイタチと言う。彼はかの有名はうちは一族の出身で、かつ一族の中でもその実力は抜きん出ており将来も有望であったが、うちはシスイ殺害の容疑をかけられ、その数日後一族抹殺を行い里を抜けた。容姿は端麗で、黒髪に写輪眼の紅い瞳が彼のトレードマークとなっている。

「ラーメン屋でやっと見付けたはいいが…お守りが、あの伝説の三忍≠ニは。彼が相手では木ノ葉のうちは一族≠熈霧の忍刀七人衆≠フ名もかすんでしまう」

「ああ…」低く返事をしたイタチは、まるでそこに標的がいるかのように視線を鋭くした。隣人はこの意味には気付かなかったが、その視線は、まるで過去の自分を戒めているようにも見える。最強と謳われたうちは一族の神童の過去に、一体何があったというのだろうか。

「――しかし…どんな強者にも、弱点というのがあるものだ…」

///

医療班の治療が終わった重傷のカカシと軽傷アスマは、紅とガイに付き添われカカシの自宅へと向かっていた。カカシは、先のイタチと鬼鮫との戦闘において、相当な精神的ダメージを喰らわせれており、今も尚意識を取り戻していない。

「なぁ、ガイ」
「なんだ?」
「お前はどうやって、対写輪眼の戦闘法をあみ出したんだ?」

カカシはガイに背負われて、紅はその半歩後ろを歩く。そんな三人のさらに後ろから、アスマは声をかけたのだった。カカシの家にはあともう数分も立たないうちに到着するだろうが、医療班員から告げられたカカシの重傷具合を考え、対写輪眼や他の瞳術使いとの戦闘においての戦い方を彼から学んでおいた方が良さそうだと判断したからだ。

ガイが言った『写輪眼と戦う場合は、目と目を合わせなければ問題ない!』と言うのはよく分かる。と言うより最もなことだ。さらに『常に相手の足だけを見て、動きを洞察し対処する』と言うのも理にかなってはいるが、それが出来なかったから、先の戦闘では圧されてしまった。

「そんなものは、カカシとの対戦対策にそれに対する戦い方を考慮してきたから自然と身に付いたのだよ!」

「あぁ…なるほど!あれでしょ?――いつものあのくだらない…」
「くだらないとは何だ、紅!ひどいじゃないか!え!」
「だって、見ててもホント下らないんだもの。…ほら、前やってたのはただのジャンケンじゃない」
「あっ、あれは、ただのじゃんけんじゃないぞう!運も実力の内という言葉を知らないのかぁ紅!」

「だー!うるせぇよ、ガイ!…それと、紅も煽んな!」

足だけで相手の動きを全て把握できると言ったガイは、アスマからしても尊敬ものだった。だから、彼から話を聞けば何か次の一手に繋がると思った。しかし、そんな彼の思惑も知らず話がどんどんと変な方向へ進んでくので、煙草を吹かしながら『こりゃダメだ…』と思い、ガックリ肩を落としたのであった。




そんな四人の対面側を、濃紺色の着物に、頭巾付きの羽織りを着た人物が歩いているのを彼らは認識していなかった。その付近の建物の屋根や木々の枝には烏が留まり、目下を歩行する人間達を見下ろしている。

上忍師四人が、カカシ宅へと到着するのを見届けてると、濃紺色の和装の人物は、パチンという小さな破裂音のみを残し、その場から忽然と消えていた。その場を行き交う人々は、その人間が消えたことにも気付かず同じ日常を繰り返していくのである。

20140223
title by 207β
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