15.引き金は衣嚢に2
「…それで、どうして私が君に用事があったかというとねぇ」
「うんうん」
「カカシ先輩からの私信に、君があの方に師事して修業のために里を出るって聞いたからその応援と…はい、これ」
「…この紙はなんだってばよ?」
「自来也様に、ナルトくんから渡してもらいたいのねぇ。カラスからの伝言文だって言えば、きっと分かって頂けると思う」
姉ちゃんから受け取ったのは、小さく折り畳まれた白い紙だった。中を読もうとしても、紙の重なった部分はぴったりとくっ付いていて離れない。「読もうとしても特別な術がかけてあるから自来也様以外読めないよ」と口元に笑みを浮かべながら言った姉ちゃん。「ちぇー」と言いながらもオレはズボンのポケットにしまった。
そこでオレが「ところで、姉ちゃんの言ってるその自来也様≠チてだれ?」と聞くと、姉ちゃんは驚いた顔をして「自来也様が誰だか分からずに、その手紙を受け取ったの?ナルトくん」と言った。
オレが照れながら「ヘヘッ」と、片手を上げて頭の後ろをかくと、姉ちゃんは溜息をつきながら「君がエロ仙人≠チて呼んでるその人のことだよ」と言ったので、今度はオレが驚く番だった。
・
・
「…それと。ナルトくん、額当てを貸してくれる?」
「え? 姉ちゃんも額当てくらい持ってるだろ?」
「もちろん。これでも一応、忍者だからねぇ…」
額当てはオレにとって、とても大事なモノだから人の手に渡るのは何だか嫌だった。片時も手放したくないという気持ちと、オレから額当てを取り上げてどうするんだという疑念が目を通して伝わったのか「…ふふ。そんな目をしないで?終わったらちゃんと君に返すからさぁ。ね?」と苦笑された。
オレは姉ちゃんの言葉を信じ、額当てを彼女に渡した。すると、いつの間にか彼女が手にしていた正方形の小さな紙を、木ノ葉マークの裏にあたる布の部分に乗せた。「何するんだってばよ?」オレが問えば「悪いようにはしないからさぁ。…まぁ、黙って見ててよ」と口角を上げた。
姉ちゃんが、正方形の紙片を乗せたオレの額当てをベッドに置くと、目にやっと見えるほどの淡い白と紫の混じった炎のようなものを右手に纏ってそれを撫でた。普通なら紙もろとも額当ての布も燃えて焼き焦げてしまうだろうに、オレの額当ては無傷で、あの紙だけがどこかに消えちまった。
「カラスの姉ちゃん!今、何やったんだってばよ!?あの紙は?ってか、どうして額当ては燃えてないんだってば!」
興奮して質問攻めするオレの肩を両手で押さえて落ち着かせようとする姉ちゃん。「これが、私なりの応援だからさぁ。…ナルトくんの修業が上手くいく為のおまじない≠セよ」その一言でオレからの質問を全て片付けてしまい、その後は結局何にも教えてくれなかった。
「さてさて、ナルトくんはお急ぎでしょうし、用も済んだので私は帰りますね」
「…あー!オレってば、エロ仙人を待たせてるんだったってば!」
「それは、大変ですなぁ!急いで準備をしなくちゃだ!」
ばたばたとそこら中から荷物を引っ張り出してきて、片っ端から大きな黄色い袋に詰めているオレを見兼ねた姉ちゃんが、まるで山のようになったパンパンの袋から必要な分の荷物を厳選し、服はきれいに畳んで、薄花色のリュックに片付けてくれた。
「…わー!姉ちゃん、ありがとうってば!」
「どういたしまして」
結局、火の元の確認や家の戸締まりまで手伝ってもらったオレ。カラスの姉ちゃんは、やさしくて親切な人なんだなって思った。オレはいつものブルーのサンダルを、姉ちゃんは自分の下駄を履く。そんでもって、姉ちゃんは来た時と同じようにお面をつけて、羽織りの頭巾を被った。
カラスの姉ちゃんは、キレーな顔してっから隠さずに出していった方が良いんじゃないかって、オレってばそう思うんだ。けど、それを姉ちゃんに言ったら「忍者が素顔を見せてもいいのは、本当に信頼している相手と向き合う時だけだよ」と猫のお面の向こう側から声がした。
無表情で、少しだけ怖い感じのする猫のお面をしていても、なんとなく姉ちゃんが笑っているような雰囲気がして、オレも笑った。姉ちゃんの言葉からオレが想像するに…オレって言う人間は、カラスの姉ちゃんの信用に足る人物だってことだ!
だって姉ちゃんは、このオレに、お面の下の素顔を見せてくれたから!――スキップしながら階段を降りていくと、後ろから「ナルトくん、注意して降りないと危ないよ」って声がかけられた。けど、姉ちゃんのその言葉も他者から認められたことに浮かれるオレには右から左だった。
「アッ、やべ!」だから、階段を一段踏み外したオレは超カッコ悪い。――階段の踊り場に身体が叩き付けられる!グッと目を閉じると、その瞬間何か別の温かいものに包まれて、次に襲ってくるはずの衝撃もなく着地した。間髪入れず、オレのすぐ耳元から「ほら、言わんこっちゃない」という声がダイレクトに聞こえた。
「ね、姉ちゃん…!」
「…こんな調子で大丈夫ですかぁ、ナルトくん?」
やっぱり、お面で顔は見えなかったけど、姉ちゃんが呆れて笑っているのが雰囲気で伝わってきた。階段を降り切って、敷地内を出たところで姉ちゃんの足は止まった。どうやら、姉ちゃんはこっからオレとは反対方向に目的地があるっぽい。
すると、おもむろにお面を取り外しにかかる姉ちゃんにオレはびっくりして、周囲に人がいないか確認した。「姉ちゃん、何してんだってばよ!忍者はそんな簡単に素顔を見せちゃダメなんだろ!?」となるべく声を落として言えば、露になった口元が綻び「送り出すのが猫顔のお面だなんてさぁ、悲しいじゃないですか」と言って、完全に素顔を晒した。
そんな姉ちゃんの気遣いに、オレはなんだか胸のあたりがじわじわと温かくなった。どうしてだろう?姉ちゃんとオレは、今日が初対面なはずなのに…どうしてだか、姉ちゃんがオレに笑ってくれるのを見てると、それが懐かしいような気持ちになるってば…。
「なんかさ、なんかさ!いつもより、この額当てがオレに馴染むような気がするってばよ!」
「…ふふふ。それは良かったね。 あ、ほら、」
///
『その手紙、忘れないように渡してねぇ?』
オレのポケットからはみ出てた白い紙を指差して微笑むカラスの姉ちゃん。その時の姉ちゃんの顔が、なんだか誰かに似ているような気がした。
20140222
20160605加筆修正
title by 207β
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「…それで、どうして私が君に用事があったかというとねぇ」
「うんうん」
「カカシ先輩からの私信に、君があの方に師事して修業のために里を出るって聞いたからその応援と…はい、これ」
「…この紙はなんだってばよ?」
「自来也様に、ナルトくんから渡してもらいたいのねぇ。カラスからの伝言文だって言えば、きっと分かって頂けると思う」
姉ちゃんから受け取ったのは、小さく折り畳まれた白い紙だった。中を読もうとしても、紙の重なった部分はぴったりとくっ付いていて離れない。「読もうとしても特別な術がかけてあるから自来也様以外読めないよ」と口元に笑みを浮かべながら言った姉ちゃん。「ちぇー」と言いながらもオレはズボンのポケットにしまった。
そこでオレが「ところで、姉ちゃんの言ってるその自来也様≠チてだれ?」と聞くと、姉ちゃんは驚いた顔をして「自来也様が誰だか分からずに、その手紙を受け取ったの?ナルトくん」と言った。
オレが照れながら「ヘヘッ」と、片手を上げて頭の後ろをかくと、姉ちゃんは溜息をつきながら「君がエロ仙人≠チて呼んでるその人のことだよ」と言ったので、今度はオレが驚く番だった。
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「…それと。ナルトくん、額当てを貸してくれる?」
「え? 姉ちゃんも額当てくらい持ってるだろ?」
「もちろん。これでも一応、忍者だからねぇ…」
額当てはオレにとって、とても大事なモノだから人の手に渡るのは何だか嫌だった。片時も手放したくないという気持ちと、オレから額当てを取り上げてどうするんだという疑念が目を通して伝わったのか「…ふふ。そんな目をしないで?終わったらちゃんと君に返すからさぁ。ね?」と苦笑された。
オレは姉ちゃんの言葉を信じ、額当てを彼女に渡した。すると、いつの間にか彼女が手にしていた正方形の小さな紙を、木ノ葉マークの裏にあたる布の部分に乗せた。「何するんだってばよ?」オレが問えば「悪いようにはしないからさぁ。…まぁ、黙って見ててよ」と口角を上げた。
姉ちゃんが、正方形の紙片を乗せたオレの額当てをベッドに置くと、目にやっと見えるほどの淡い白と紫の混じった炎のようなものを右手に纏ってそれを撫でた。普通なら紙もろとも額当ての布も燃えて焼き焦げてしまうだろうに、オレの額当ては無傷で、あの紙だけがどこかに消えちまった。
「カラスの姉ちゃん!今、何やったんだってばよ!?あの紙は?ってか、どうして額当ては燃えてないんだってば!」
興奮して質問攻めするオレの肩を両手で押さえて落ち着かせようとする姉ちゃん。「これが、私なりの応援だからさぁ。…ナルトくんの修業が上手くいく為のおまじない≠セよ」その一言でオレからの質問を全て片付けてしまい、その後は結局何にも教えてくれなかった。
「さてさて、ナルトくんはお急ぎでしょうし、用も済んだので私は帰りますね」
「…あー!オレってば、エロ仙人を待たせてるんだったってば!」
「それは、大変ですなぁ!急いで準備をしなくちゃだ!」
ばたばたとそこら中から荷物を引っ張り出してきて、片っ端から大きな黄色い袋に詰めているオレを見兼ねた姉ちゃんが、まるで山のようになったパンパンの袋から必要な分の荷物を厳選し、服はきれいに畳んで、薄花色のリュックに片付けてくれた。
「…わー!姉ちゃん、ありがとうってば!」
「どういたしまして」
結局、火の元の確認や家の戸締まりまで手伝ってもらったオレ。カラスの姉ちゃんは、やさしくて親切な人なんだなって思った。オレはいつものブルーのサンダルを、姉ちゃんは自分の下駄を履く。そんでもって、姉ちゃんは来た時と同じようにお面をつけて、羽織りの頭巾を被った。
カラスの姉ちゃんは、キレーな顔してっから隠さずに出していった方が良いんじゃないかって、オレってばそう思うんだ。けど、それを姉ちゃんに言ったら「忍者が素顔を見せてもいいのは、本当に信頼している相手と向き合う時だけだよ」と猫のお面の向こう側から声がした。
無表情で、少しだけ怖い感じのする猫のお面をしていても、なんとなく姉ちゃんが笑っているような雰囲気がして、オレも笑った。姉ちゃんの言葉からオレが想像するに…オレって言う人間は、カラスの姉ちゃんの信用に足る人物だってことだ!
だって姉ちゃんは、このオレに、お面の下の素顔を見せてくれたから!――スキップしながら階段を降りていくと、後ろから「ナルトくん、注意して降りないと危ないよ」って声がかけられた。けど、姉ちゃんのその言葉も他者から認められたことに浮かれるオレには右から左だった。
「アッ、やべ!」だから、階段を一段踏み外したオレは超カッコ悪い。――階段の踊り場に身体が叩き付けられる!グッと目を閉じると、その瞬間何か別の温かいものに包まれて、次に襲ってくるはずの衝撃もなく着地した。間髪入れず、オレのすぐ耳元から「ほら、言わんこっちゃない」という声がダイレクトに聞こえた。
「ね、姉ちゃん…!」
「…こんな調子で大丈夫ですかぁ、ナルトくん?」
やっぱり、お面で顔は見えなかったけど、姉ちゃんが呆れて笑っているのが雰囲気で伝わってきた。階段を降り切って、敷地内を出たところで姉ちゃんの足は止まった。どうやら、姉ちゃんはこっからオレとは反対方向に目的地があるっぽい。
すると、おもむろにお面を取り外しにかかる姉ちゃんにオレはびっくりして、周囲に人がいないか確認した。「姉ちゃん、何してんだってばよ!忍者はそんな簡単に素顔を見せちゃダメなんだろ!?」となるべく声を落として言えば、露になった口元が綻び「送り出すのが猫顔のお面だなんてさぁ、悲しいじゃないですか」と言って、完全に素顔を晒した。
そんな姉ちゃんの気遣いに、オレはなんだか胸のあたりがじわじわと温かくなった。どうしてだろう?姉ちゃんとオレは、今日が初対面なはずなのに…どうしてだか、姉ちゃんがオレに笑ってくれるのを見てると、それが懐かしいような気持ちになるってば…。
「なんかさ、なんかさ!いつもより、この額当てがオレに馴染むような気がするってばよ!」
「…ふふふ。それは良かったね。 あ、ほら、」
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『その手紙、忘れないように渡してねぇ?』
オレのポケットからはみ出てた白い紙を指差して微笑むカラスの姉ちゃん。その時の姉ちゃんの顔が、なんだか誰かに似ているような気がした。
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20160605加筆修正
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