万物流転 | ナノ
14.引き金は衣嚢に
上手く誘導された気もしないでもないが、オレは玄関を開けその人を部屋へあがらせた。オレが適当にサンダルを脱いで廊下を進もうとすると、その人は自分の下駄を脱いでから、きちんと玄関の端に自分のもんを揃えて、その次に、オレの脱ぎ散らかしたサンダルをも揃えていた。

きちんとしてんだなぁ…まるで、サスケみたいだ。そんな風に思いながら廊下を歩き、いつも食事をするテーブルのある部屋まで行くと後ろから声がかかった。落ち着いて話せる場所と言われて、自分のテーブルやその周囲を見てみると、カップメンや牛乳パックなどで散らかっているのに気付く。

他にも得体の知れない物体がこびり付いている箇所や、窓辺には割れた硝子の破片。あと、見なきゃ良かった…と思わせる汚れなども見つけてしまった。確かにここじゃあ落ち着いて話せないよな。オレ、もう少し自分の家掃除しよ。

「うーん…それって、座れる場所って意味か?」
「…まぁ、そういうことだね」
「それじゃあベッドの部屋しかねぇってば!」
「…え?寝室?」

オレが考えて思い付いた場所は、情けない話、自分がいつも寝起きしている部屋しかなかった。ここだけは、自分でも意識して掃除していたから、ここよりは比較的にきれいだろう。余程のことがない限り使わない台所の隣りから続く廊下へ足を進め、扉を開ける。足元には、ゴミの入った黒い袋があったが、それをちょちょいと足で退かせば邪魔にはならないってば!

ベッドの上の布団を整えて、ここに座ってくれとオレが言ったら、嫌がる素振りも見せず、その人はちょこんと腰掛けた。これで完璧!一応は落ち着いて話せるってばよ。自分もベッドに登って胡座をかいてから、まじまじとその人を見つめていると、本当にこの人を家にあげても良かったのだろうか?と疑問が湧いてきた。

「おまえ、オレに用があって来たんだろ?」
「…そうだよ。うずまきナルトくん」
「…話ってなんだってばよ?ていうか…だれ?」
「…そうだね、私と君は初対面だったねぇ」

大事なことを話す前に、自分のことから話し始めようとした相手の言葉をオレは遮った。なぜなら、その説明が長くなるとオレが困るからだってばよ。オレが「話なら手短かによろしくってば!」と言えば、一瞬だけその人は固まると、思い出したようにまた動き出してお面と被っていた頭巾も取った。

初めて目にしたその人の顔に、オレは「エッ!」と大声が出そうになったけど、オレが叫ぶ前にその人の手によって口に蓋をされてしまい、叫ぶに叫べなかった。それに、無表情なお面から露になった、生気のある真っ黒の目を前にして、本能的に何かを感じ取ったオレは黙らざるを得なかった。

静かにする時のポーズのまま、黒い瞳に見つめられるのは、なんだか妙な時間の流れを感じた。数秒のことだったと思うのに、それは何時間もの長い時が流れていたように感じたんだってばよ。

この人は、家にあげちゃダメな人だったのかも――そんな考えが頭の隅に浮かんで来そうな頃になって、その人が「叫ばないでね」と念押しして、オレがそれに頷くと、口を塞いでいた手をそっと離したんだ。




「以後はカラスとお呼び下さいね」とその女の人は言った。ちゃんと名前があるのに、動物の名前で呼べだなんて、変な話だってばよ。

黒く澄んだ瞳に、こっちが心配になるくらい色の白い肌。だけど、くちびるだけは薄らと色付いていて、やけに存在感がある。それから、他のどの同級生の女の子達よりもきれいで、つやつやした黒い髪の毛は、首の後ろでゆるく結んであり上に着ている羽織の中へと伸びていた。きっと、オレから見えてるよりもずっと長い髪なんだろうなぁ。

「あの…ナルトくん?私の顔に何か付いてますか?」
「ッえ!?んや、なにもついてないってば!」

「そうですかぁ。…そうならいいのですが」そう言ったレイリ姉ちゃんもとい、カラスの姉ちゃんは顔の横に垂れてきていた髪の毛をサッと耳にかけた。その仕草の色っぽいことと言ったら!

オレは妙にドキドキして、ちらりと姉ちゃんから視線をそらす。エロ仙人だったら、この姉ちゃんにニコってされただけでイチコロだぜ!たぶんだけど。

「ナルトくんは今、上忍師について任務を行っていますね?」
「…そうだってばよ。それがどうかしたのか?」

「その上忍師が、私の先輩なんですよぉ」
「エー!姉ちゃん、カカシ先生の後輩なのかってば!?」
「そうなんです。…あの人は、前から遅刻魔なんですよ?」

オレより少し年上っぽいだけなのに、カカシ先生がこの姉ちゃんの先輩で、この人が先生の後輩になるってことは、一体どう言うことだってばよ?それに、先生が『遅刻魔』だってことも知ってるってことは…それに、今姉ちゃんは前から≠チて言ったよな?

「…任務の集合時間になっても、あの人待ち合い場所に来ないことがあってねぇ。呼びにいくのが下っ端の私の役目だったんです」

「あの頃は苦労させられたなぁ」そう言うカラスの姉ちゃんは、昔を懐かしむみたいな顔をしてる。ってことは、カカシ先生のあの遅刻癖は昔っからみたいだってばよ。

オレは頭の中で言い訳を繰り返す先生を思い浮かべて、呆れた笑いしか出来なかったのである。

20140222
20160605修正
title by 207β

*titleの『引き金は衣嚢に』は、207β様の「徒然と30題-19/引き金はポケットに」の太字部分を同義語の「衣嚢-いのう」という言葉に変更して使用しています。aboutにて『使いやすいように変更可』とありましたので、そう表記させて頂きました。何か不都合がありましたら、ご連絡下さい。
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