万物流転 | ナノ
13.死に塗れた祈り3
火影のじいちゃんが死んだ。大蛇丸ってのと戦って負けたんだって、大人達は言っていた。カカシ先生が言うには、じいちゃんとその大蛇丸ってやつは、オレとカカシ先生みたいな間柄だったんだってさ。

元は同じ木ノ葉の忍者同士が殺し合うのって、不思議だってば。オレにはじいちゃんと大蛇丸との間に、それから、大蛇丸がどうして木ノ葉を抜けて『抜け忍』ってぇのにならなきゃダメだったか原因も理由も知らねえけど…。仲間が仲間を殺しちゃいけねぇってことだけは分かる。

火影のじいちゃんは、オレの憧れの存在だ。それに、じいちゃんだけは、オレのことを冷たい目で見ることはなかった。今までの一度もな。だから、じいちゃんだけは初めっから、オレの存在を認めてくれてたんだってばよ。

そんで、じいちゃんがどうしてオレの憧れかっていうと、オレの目標が『火影になって、里のやつら全員にオレの存在を認めさせること』だから。火影ってのは、里の誰もが認める最高の忍者だってことを、アカデミーのイルカ先生から教えられた。その日から、オレの目標がこれに決まったんだってばよ。

でも、そんな目標もいなくなっちまった。オレは、ぽっかりと心の中に穴が空いちまった気持ちになった。たぶん、こんな気持ちになるのはオレは初めてじゃない。

オレが、初めてじいちゃんから与えられる任務のその内容に反対してCランクの任務(後から分かったことだけど、実はBランク以上の内容だったんだなーこれが)を依頼された時に対峙した敵の、白と再不斬が目の前で動かなくなっていくのを見た時のあの気持ちと似てる。でもこの気持ちの痛さはその時以上だ。

じいちゃんの葬式の日は、雨が降ってた。冷たい冷たい雨だった。オレがよく悪戯でラクガキしていた火影岩の真下。じいちゃんの顔岩には額から右頬にかけて亀裂が走ってたのを覚えてる。それを見上げてから、ふと湧いた疑問を泣いてる木ノ葉丸に付いてたイルカ先生に尋ねてみた。『どうして人は、人のために命をかけるのか』と言うことを。

そしたらイルカ先生は、オレに教えてくれた。『自分の夢や希望と同じくらい大切な人とのつながりの糸を持った人はそうしてしまう』んだって。イルカ先生が教えてくれたことは、オレにも何となく理解できる。だけど、それでも…じいちゃんが死んだことは、辛い。辛いんだってばよ。

そう言ったら、今後はカカシ先生が「三代目だってただで死んだわけじゃないよ。ちゃんとオレ達に大切なものを残してくれてる…」と喋った。『大切なもの』という言葉が、頭の中でぐるぐるした。

じいちゃんがオレ達に残してくれた大切なものって何なんだろう。オレの新たな疑問が顔に出てたのか、振り返って見た先のカカシ先生は「ま…いずれお前にも分かるようになるさ」と言ってくれた。

今は具体的なものが何だか分からなくても、オレが信じて進んだその先の未来で、火影のじいちゃんが、オレや他の皆に残し託した大切なもの≠フ正体が分かれたらいいなって思ったんだ。

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その次の日は、腹が減っては戦はできぬってことで、オレは昼飯に大好きな一楽のラーメンを食っていた。なんとも言えないこの味噌スープに絡む麺の味が、砂の我愛羅と戦ってボロボロになった身体に染み渡っていく感じだってばよ。

『聞いた通り来てみりゃ…本当に、ラーメンばっか食っとるようじゃのォ…』

そんな最高の感覚にひたりながらラーメンを啜っていると、そこにエロ仙人が来た。エロ仙人≠チていうあだ名は、オレがつけた。理由は、鼻の下をズルズルに伸ばして女湯を覗いてたからだってばよ!オレはこんな大人だけには、ぜってぇならねえ!命名する時にそう決めたんだってば。

エロ仙人には、中忍試験の本戦前の約一ヶ月間、カカシ先生の代わりのムッツリスケベなエビス先生の、さらに代わりに修業を見てくれてたんだ。(そういえば、今から思えばカカシ先生は、この頃からずーっとサスケの修業ばっか見てエコひいきだってばよ)

俺が座っているカウンターの席のすぐ隣りを陣取って、エロ仙人も一杯ラーメン(しかも、チャーシュー大盛り)を頼んだ。テウチのおっちゃんが麺をお湯から上げ水分を切り、器に乗せて熱々の良いにおいのするスープを注ぐ。アヤメの姉ちゃんが今しがた切り終えた分厚いチャーシューをほぐした麺の上に綺麗に盛り付けた。

それから、ネギと卵とメンマと海苔をトッピングして、ドンと出されたラーメンに、オレは自分の空になったラーメン皿を見て、これから食べ始めるエロ仙人が羨ましくなった。

オレがチャーシュー大盛りのラーメンに目が釘付けになってんのにエロ仙人は気付くと面白がって、しばらくにやにや〜にやにや〜、腹の立つ顔をしてオレを見てたけど、一口麺を啜ってから、自分の箸でオレの器に三枚チャーシューをくれた。

『エロ仙人っていい奴だったんだな!』
『何を今更言っておる!わしは、はじめっから良い色男だろうが!』

エロ仙人が食い終わってから(ちなみに、あの後エロ仙人の奢りでもう一杯ラーメンを食べた)テウチのおっちゃんに「また来るってばよ!」と言って一楽を出た。しばらく道なりに進んで歩いていると、エロ仙人から『取材旅行について来ないか』って提案された。

初めのうちはオレも乗り気じゃなかったけど、エロ仙人が千鳥よりも凄い術を教えてくれるって言うから、オレは急いで旅の荷物をまとめるために家に帰った。

そして、オレは紺色よりももっと暗い色の服を着た怪しい人物を発見したんだ。そいつは、オレの家の玄関に手をかけて開けようとしていたっぽかった。泥棒だったら、わざわざご丁寧に玄関から入ってこねぇよな?だから、泥棒じゃねぇってことはすぐに分かったんだけど…。

オレには、わざわざ家を尋ねて来るようなそんな間柄の人間は基本的にいねぇんだってばよ。イルカ先生とか、カカシ先生。それか、シカマルとか、そういうダチがそこにいたなら、オレはちっとも不審には思わねえ。でも、今オレの家の前にいるやつは見たこともねぇやつだった。

「そこ退いてくれってば!」

もし別の家と間違えてる普通の人間なら、オレから声を掛けるとオレを見て、皆冷たい目をして帰ってく。そんなのもう慣れっこだ。オレは走りながら手を振って、そいつを追い払おうとしたけれど、くるっとそいつがこっちを見た時、オレは驚いて急ブレーキをかけなきゃならなくなったんだ。

だって、そいつ…顔が見えねえの。あ、のっぺらぼうって訳じゃねぇよ。紺色の服のそいつは、お祭りでもねぇのに動物のお面をつけてやがったんだ。まずそれに驚いたんだってばよ。

あと、こんな近くにオレがいんのに逃げようとしないってことは、普通の一般人じゃないってことだし、ひょっとしたらオレのことを知らないやつなのかなーって思ったけど、目の前のやつは呟くように、オレの名前を言った。

警戒しながら「おまえだれ?オレになんか用?」間を置かずに「オレってばエロ仙人待たせてっから、急いで準備しなきゃなんねぇんだけど!」と言えば、目の前のお面のやつは困った雰囲気になって、オレに時間をくれと言った。

怪しいやつには近寄らないのがいいってのも、ましてや、家に怪しいやつをあげるだなんてことは、普通絶対しないってことをバカなオレでも十分に理解してるつもりだってばよ。

だけど、それ以上に、オレのことを知っていても尚、冷たい視線を向ける訳でも、罵声を浴びせる訳でもなく、オレの時間を自分にくれるか?と尋ねてきた人間に興味を持ったんだ。

20140222
title by 207β
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