万物流転 | ナノ
50.どれだけ
二十四日の夜、フレッドとジョージ主催で行われた祝捷の宴で、グリフィンドールの談話室は大騒ぎだった。ハリーの道徳性を誰もが褒め讃え、湖の底で何が起こったのか誰もが詳しく聞きたがった。

課題から解放された程良い疲労感から、私は多く語らなかったが、代わりにロンくんがしてくれた。ロンは、ハリーだけではなく、自分も注目を浴びていることに気を良くしてあれこれ語った。その内容が大胆な脚色に富んだ誘拐物語になった頃、ある一通の手紙が梟によって届けられることとなる。

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愛しのヘカテーへ
君に会いたい。次のホグズミード行きの土曜日午後二時に、ハリーと落ち合うことになっている。できればそこへ、君に来てもらいたい。そして、ずっと渡せていなかったものも受け取ってほしい。


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三月に入ると、天気はからっとしてきたが、校庭に出ると情け容赦ない風が吹き荒び、手や顔を赤むけにした。第二の課題以降、セドリックと会う回数が格段に減った。それは、お互いの友人がお手透きになった私たちを手放さなかったからである。

彼らがやけに私に構ってくるのに気付いていたが、それは彼らが私がいなかった時を少しでも寂しいと思ってくれていた反動であることを知っていたので大人しく構われていた。こんな私に、惜しみない友情を注いでくれるいつもの五人に、私は内心、喜びと不安が入り交じっていて複雑な心境だった。

――今まではあまり考えようにしてきたが、もうずっと彼のあの言葉が胸の奥に、まるで痼りのように残っていた。『でもね、相応しいとか、相応しくないとかは、自分が決めることじゃないんだ』辞職してしまったが、去年防衛術の教鞭を執ったリーマスの言葉だ。

私は今も、正直なところ私がここにいることによって、彼らの幸不幸を引っ掻き回している気がしてならない。この世界にとっての異物である感覚は、どうしても拭い去ることができないでいた。みんなが私に優しかった。私が平気な顔をして人を殺せる人間であるのも知らないで、彼らは私に優しさを分けてくれる。友情ばかりか、愛情まで傾けようとする。

私は所詮外の世界の生き物で、彼らからそれを与えられていいような人間ではないのに。価値もないのに。それを自認しつつも、自分の存在が彼らに否定されるのを酷く恐れる私がいる。あまつさえ、彼らに私の存在を認めてもらいたい、私を許してほしいと懇願する浅ましい気持ちもあるのだ――

私が少しでもひとりになろうとすると「どこ行くんだ?」と(リーが)聞いてきたり、監督生としての仕事から帰ってくると「待ってたのよ!」と(アリシアとアンジーが)お菓子を用意してくれたり、以前までなら各々自由に過ごしていた時間も「図書館に行かないか?」と(あの双子が)誘ってきたりする。

そこまでして私との時間を作りたいのかと、彼らの熱心さには舌を巻いてしまう。もちろん嬉しい。ほんのちょっぴり窮屈さも感じるが、彼らの気持ちが嬉しかった。彼らに大切にされている自覚ができた。でも、そのことに肯定的な自分と否定的な二人の自分がいるのも事実で、手放しには喜べないのが苦しかった。

セドリックも最近、同じ寮の友人達に囲まれて楽しそうに過ごしているのをよく見かける。どうやら、次のホグズミード行きを心待ちにしているようだった。彼には心行くまで楽しんで来てもらいたい。

私も彼も、友人達を蔑ろにしていた訳ではないが、卵の課題をこなすために放課後や休日の時間のほとんどを、選手・助手として忙しく過ごしていた自覚があった。いつの間にか、次の課題発表までの期間は友人と過ごす時間を大切にしようというのが、彼と私の暗黙の了解になっていた。

20160316
title by MH+
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