万物流転 | ナノ
2.花を抱くその手で剣を握る
『カカシさん…』
『んー?』

『どうして人は、人のために命をかけたりするのでしょうか』

俺はいつかこの人に、そんな質問を投げ掛けたことがあった。その質問は、特に答えを必要としていない問い掛けで、暗部の任務に就いていた時にふと沸いた疑問であった。しかし、そんな俺の言葉を馬鹿にするどころが、真剣に考えて下さったカカシさんは、ついに一言、俺に告げたのであった。

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「さすが紅さん…でも、」
「でも…ま!ここまでだよ――お前がな」
「!」

「「水遁 水鮫弾の術!!」」

「何でお前まで出てくんだっつーの」
「いやー さっきはお二人にお願いしちゃったけど…ま!気になるじゃないやっぱ…」

じっと睨んでくるカカシさんの目にも、俺と同じ紅い瞳に三つの黒い巴が不気味に光っている。あぁ、忌まわしき、うちはの血継限界が。俺も弟も、そして彼女も、こんなものを持って生まれてきてしまったばっかりに、血の宿命を、業を、背負わされてしまったのか。

「これは驚いた…道理で私の術を…」
「……」

「本当にイタチさん以外にその眼を持っている輩がいたとはね…。名は、確かコピー人じゃのカカシ…」

「驚いたのはこっちだよ…。茶屋で怪しい奴らがいたんで誰かと思ってたら…まさか、うちはイタチと…霧隠れの怪人干柿鬼鮫とはね」

「これはこれは…私の名まで。光栄ですよ」
「…なるほど。霧の忍刃七人衆の一人、そのデカい刀が『鮫肌』というわけか」

「再不斬の小僧はアナタとやり合ったと聞きましたが…?」
「ああ…」
「クク…削りがいのある方だ…」

「よせ…鬼鮫」

彼女は、今の俺を見たら…どう思うだろうか。笑ってくれるだろうか。泣いてくれるだろうか。故郷の気にあてられたついでに、彼女と、彼女とのことを思い出していた。

あの人は、あの人だけは、俺を拒否しないという、絶対的な自信がそこにはあった。彼女が……レイリが、生きていないことだけが、ただただ、悔やまれる。しかし、彼女を殺したのはうちはであり、うちはに生まれた俺だった。

「お前がその人とまともにやり合えば、ただでは済まない…。それに時間をかければ他の忍がここに駆け付けるだろう」

「しかし…、」
「目的を見失うな…お前はここに手傷を負いに来たわけじゃないだろう!」

好戦的かつ血の気の多いパートナーには慣れてしまったが、今日は面倒くさい人に捕まってしまった。この里の主力である上忍猿飛アスマに、同じく上忍夕日紅、そして現在弟の上忍師を務めていると聞くはたけカカシ。

「その目的とやらを聞こうか…?」

「探しものを…見付けに来ただけです…」
「探しもの…?何だ…それは? …まさか!」

厳しい目をしたカカシさんは、一瞬だけ瞠目した。「なんてこと!どうしてアンタ達が知っているの!?」紅さんは取り乱したようにそう叫ぶと「落ち着け、紅!奴らが知っている訳ないだろう」とアスマが言った。一体何を勘違いしているのやら。

しかし、三人が平静を失ってしまうほどには、里の中で何かしらの良からぬ出来事が発生したのだろう。大蛇丸が砂を唆し結託して行った木ノ葉崩しにより、甚大な被害を被った時分だ。何が起きていても不思議じゃない。

「…何を勘違いされているかは分かりませんが、――オレなら鬼鮫と違って時間はかからない」

俺が右手の手裏剣を囮にして、足元から水遁で攻撃を仕掛けると、カカシさんは水遁水陣壁で攻撃を相殺した。やはり、カカシさんはエリートと呼ばれるだけの人物に値する。

「さすがカカシさん。洞察眼はかなりのもの…」

しかし、まだ甘い。そして、彼はうちはの本当の血族ではない。血族ではないカカシさんが、ここまで写輪眼を使いこなすことは、評価に値するが、それでも、まだまだ甘い。写輪眼の本当の恐ろしさを、彼らは知らない。

「…ですね」

「影分身!? 術のスピードが早過ぎる…!」

こんな程度で早いとお思いか。紅さんもまだまだですね。俺がカカシさんの背中に突き刺したクナイを、抉るように力を込めると、バシャッと音を立てて彼の水分身は消えた。それを見た鬼鮫の神経がざわっと逆撫でられたことは言うまでもない。

カカシさんの水面下での移動はお手の物だ。俺は分身大爆破を使い、カカシさんと紅さんを狙う。が、あと少しのところで本体である俺と影分身が入れ替わっていることにカカシさんに気付かれた。しかし、直撃を免れたものの、カカシさんにとっては重たい一撃になっただろう。水しぶきの向こう側からアスマさんの叫びが響く。

「気を抜くな…あいつは十三歳で暗部の分隊長になった男だ」

「ここまでの奴とはな…」
「いや、あいつの力はまだまだこんなもんじゃない」

一人の厄介な気配が、俺たちの方へと近付いてきている。本来は使う予定ではなかったが、今回ばかりは仕方ないだろう。さすがの俺でも、俺の手の内を知るカカシさんに、その他木ノ葉の上忍三人相手に長期戦だと分が悪い。

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『カカシさん…』
『んー?』

『どうして人は、人のために命をかけたりするのでしょうか』

それは、お前があの子を大切に思う理由と一緒なんじゃない?

20130929
20131226加筆
title by 207β
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