万物流転 | ナノ
1.死に塗れた祈り
「とりあえず壊滅は免れたものの、被害は甚大のようですね」
「栄華を極めたあの里が…哀れだな、……」

「ガラにも無い…。故郷にはやはり未練がありますか?」

数年振りの郷里は、変わり果てていた。所々に崩れた建物と、白煙の上る地点が数カ所。この場所からはよく見えた。隣人が、鋭く尖った視線を目下の里へと落とした。「――アナタでも…」そしてもう一度、俺へと視線を寄越す。

「いいや…まるで無いよ」

そんな言葉が、俺の口からはスルリと出て行った。地を這いずる蛇のように狡猾に、流れる水のように円滑に、非情にも思われるその言葉が、俺の口から出て行ったのだ。




ここは俺とあの人の思い出の場所。この演習場は俺と彼女のはじまりの場所であり、この場所こそが、彼女と俺のさいごの場所である。

「イタチさん?…どうかしたのですか?」
「…鬼鮫」

今ではもう、誰にも使われなくなった演習場は、もはやあの頃の姿を消していた。鬱蒼と生い茂る草木に、足元にはぼうぼうと生えた雑草。あの日、俺がクナイを投げ、中心を捕らえた練習的も今では見る影もない。

しかし、あの日、彼女が投げ、硬い大岩に深く突き刺さり、抜けなくなってしまったクナイだけが、そこに残っている。まるで、俺の中の後悔のように、黒々と、それは、はっきりと自身を主張していた。

「はい…」

あの人は、俺の目標であった。
彼女は、俺が六歳の時すでに写輪眼を開眼していた。後から聞いてみると、その力は彼女が四歳の時に目覚めたものらしい。

周囲から優秀だと常々言われていた俺でも八歳で写輪眼を開眼したことから考えてみても、決して自分が驕っている訳ではないが、彼女には天性の忍びの才能が備わっていたと言うことが理解できるだろう。

俺は、彼女の存在を知ってから、彼女に追い付きたい一心で、日夜修業に明け暮れた。そしてようやく、彼女と同じスタート地点に立てた。しかし、彼女はやはり一年先輩で、それは、彼女が七歳で、アカデミーの二年目になる年だった。俺はまだその時六歳だった。

彼女にとってみれば、俺はただの一族の年下で、当主の息子だという認識だったかもしれない。もしかしたら、周りからは奇才だと言われていて目障りだったかもしれないし、彼女の後をまるでひな鳥のようについて歩いたりなど、鬱陶しい餓鬼だと思われていたかもしれない。

けれど、俺が彼女の近くにいることを、彼女は決して拒んだり、疎んだりすることは、ただの一度もなかった。そして、ただの一度も俺を特別扱いしたこともなかった。彼女とアカデミーで過ごした時間はたったの一年であったが、彼女の隣りはとても居心地の良い場所だと分かった。

あの人は、俺の起点であった。
下忍になり、お互いに違う班に振り分けられて、アカデミー時代よりもずっと彼女と共有する時間が減った。八歳で写輪眼を開眼した俺は、それを理由に彼女に修業をせがむようになる。そしてまた、彼女との共有する時間を増やしたのだ。

弟のサスケも、めずらしく彼女には懐いていた。あの人には、やはり、人を惹き付ける力が備わっているように思えた。そして、俺は、サスケに彼女を紹介したことを少しだけ後悔した。いつしか俺は、彼女を独占できればいいのに、と馬鹿なことを考えるようになってしまっていたのである。

あの人は十一歳で俺が十になる頃、中忍に昇格した。そして、父の推薦であの人は暗部への入隊が決まった。やっと彼女と同じ場所に立てたと思ったのに、あの人は、また、俺を置いて先へと進んでしまったのだ。俺は悔しさから、父と彼女を避けるようになった。

今思えば、どうして二人から遠ざかるような真似をしたのだろうかと。俺の人生と言うものは、大概、そんな後悔ばかりだ。

そんな俺を、兄と慕った弟のサスケ。お前の人生は、俺のように後悔ばかりの生き方ではいけない。そう思っても、お前の人生を復讐に染め上げてしまったのも、俺自身だったな。

「先ほどの言葉を撤回しよう」
「…と言いますと」

総括して俺は、まだこの場所に未練がある。
そう隣人に告げると、喉の奥で低く笑った彼は俺に対して「ガラにもないことをおっしゃるのですね、イタチさん…故郷の気にあてられましたか?」と、鋭い目を向けて言った。

「…そうかも、しれないな」

20130929
20131228加筆
title by 207β
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