23.あかいろ
人前で踊るもんじゃないな。そう思いながらも、ジョージと踊るのは楽しかったし、満更でもなかった。不得意な私をリードしてくれた彼に感謝だ。踊っている最中、私はジョージの足を踏み付けないようにするため必死で、気付かなかったけれど、アリシアから聞いた話によれば、私とジョージがダンスフロアにいて踊っている間中ずっと、セドリックが見ていたらしい。
そりゃ、あんなに(パーティーには)行かない!と彼の申し出を断固拒否していた私が、ジョージと踊っているんだものね。…セドリックには、申し訳ないことをしてしまった気持ちでいっぱいだ。今度課題の件で彼に会う時には、お菓子を作って持って行ってあげよう。それで彼の気が済むのなら容易いことだ。
一頻り踊り終わった私達は、自然の流れで会場を出た。それからしばらくは、余韻に浸りながらくすくすとお喋りをした。二人きりになってジョージと話すのは、最近なかったなぁ…なんてね。器用にも、ジョージの悪戯グッツの発明秘話を聞きながら、頭の片隅で考えていた。
階段のところまで来ると、その中央に淡いピンクのドレスを着たハーマイオニーが踞りながら泣いていた。ジョージと顔を見合わせて、私は頷くと、ハーマイオニーの元へと駆けた。
どうしたの?大丈夫?と私がしゃがみながら声を掛けると、ぶわっと泣き声が大きくなった。するっと手を伸ばして彼女の身体を引き寄せる。とんとんと背中を一定の間隔を保ってたたくと、次第にその声も小さくなっていった。
ジョージは、側の壁にもたれながら、何も言わずただじっと私達のことを見ている。こう言う時の、彼の空気が読める行動は、非常に好まれる。これを自然に、素の状態で出来るから、私は彼に一目を置いているのだ。チャールズ先輩とは、また違う彼の優しさ。ジョージはとても、気遣いやさんだ。
彼女の涙の理由は、幾つかあったが、つまりは、そう言うことだ。無自覚ながらも、ロンくんに最後の手段にされていたことが気に食わなくて、悲しかったのだ。私はなんとなく眩しくなって、彼女の背中で一定のリズムを刻む手を止めた。そして、一度ぎゅっと抱きしめると、私は彼女を立ち上がらせた。
「一緒に談話室へ戻るわよ、ハーマイオニー」
「こんなとこにいちゃ、凍えちまうぜ」
「…はい、」
ぐずぐずと鼻をならすハーマイオニーの手を取って、私は階段を一段上がった。「まったく。ロニー坊やには困ったもんだ」とジョージはにこやかに言う。「せっかくの聖なるクリスマスの夜に、こんなに可愛い女の子を泣かせるとは!」その言葉に、今度はハーマイオニーがくすっと笑った。
グリフィンドール塔の入り口まで来ると、太った婦人が数人の友人と寝息を立てていた。そんな彼女らに「フェアリー・ライト!豆電球!」と三人で叫ぶと、眠たい目を擦りながら『あらあら、ごめんなさいね。わたくしったら…お入り』と婦人は迎え入れてくれた。
「おかえりなさい、レイリさん!」
「レイリ先輩!おきれいですね!写真撮らせて下さい!」
談話室まで行くと、待ち構えていたジニーとコリンに捕まった。その場の流れで、あれよあれよという間にソファーの真ん中に座らされて、カメラを構えたコリンに「ふたりとも、もう少しくっ付いて下さい!」と指示を飛ばされた。ジニー曰く「ママにレイリがちゃんとドレスを着て踊ってくれたか、証拠写真を贈らなくちゃいけなくて」だそうだ。
夜の挨拶をして女子寮の階段を登って行ったハーマイオニーは、すでにここに居らず、頼れるのはほんのりと頬を染めたジョージだけであるが、そんな彼も写真を撮るのには賛成のようで、彼には似合わずぐいぐいと身体を寄せてきた。
何枚かジョージと私のツーショットを撮った後、ジニーが私の隣りに座って「三人で撮って!コリン!」と言って、ピースをしていた。仕方ないなぁ…と半ば諦めて、私も彼女につられるように右手でピースを作る。その頃になると、若干表情の強張っていたジョージも、いつもの調子を取り戻し、カメラに向かって笑顔を向けていた。
「今夜撮った写真は、休暇明けに渡しますね」
「ありがとう、コリン!出来上がったら、ママに送ってあげなくちゃ!」
「「それじゃあ、先輩方お休みなさい!」」
ジニーとコリンは、にこにこしながら階段を上がっていった。ジョージも私も、自然とソファーから立ち上がり、階段を登った。女子寮と男子寮の境まで来ると、いつものように挨拶をして分かれた。と思ったら、グイッと右手を引っ張られて、ボスッとジョージの腕の中へキャッチされた私。え?
「レイリ、今夜はありがとう」
「…こちらこそ。ありがとう、ジョージ」
「…えっと、それじゃあ…な」
「えぇ、おやすみなさ、!」
ふにっと、私の額に何やら温かいものが押し当てられて、ぱっと離れていった。髪の色にも負けず劣らずの、真っ赤に顔を染めたジョージが目の前に立っていて、彼の瞳と視線が絡むと熱っぽい声色で「おやすみ、レイリ」と告げられた。
私は両手で額を押さえながら、何も言えずにただひたすらコクコク頷いて返事をした。あぁ、きっと…私の顔も彼の赤毛に負けず劣らずの色をしているだろう。ジョージがにっと歯を見せて悪戯っぽい笑みを浮かべた後、すたすたと軽い足取りで男子寮へと消えていったが、私はしばらくの間、その場から動けず留まっていたのであった。
20131026
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人前で踊るもんじゃないな。そう思いながらも、ジョージと踊るのは楽しかったし、満更でもなかった。不得意な私をリードしてくれた彼に感謝だ。踊っている最中、私はジョージの足を踏み付けないようにするため必死で、気付かなかったけれど、アリシアから聞いた話によれば、私とジョージがダンスフロアにいて踊っている間中ずっと、セドリックが見ていたらしい。
そりゃ、あんなに(パーティーには)行かない!と彼の申し出を断固拒否していた私が、ジョージと踊っているんだものね。…セドリックには、申し訳ないことをしてしまった気持ちでいっぱいだ。今度課題の件で彼に会う時には、お菓子を作って持って行ってあげよう。それで彼の気が済むのなら容易いことだ。
一頻り踊り終わった私達は、自然の流れで会場を出た。それからしばらくは、余韻に浸りながらくすくすとお喋りをした。二人きりになってジョージと話すのは、最近なかったなぁ…なんてね。器用にも、ジョージの悪戯グッツの発明秘話を聞きながら、頭の片隅で考えていた。
階段のところまで来ると、その中央に淡いピンクのドレスを着たハーマイオニーが踞りながら泣いていた。ジョージと顔を見合わせて、私は頷くと、ハーマイオニーの元へと駆けた。
どうしたの?大丈夫?と私がしゃがみながら声を掛けると、ぶわっと泣き声が大きくなった。するっと手を伸ばして彼女の身体を引き寄せる。とんとんと背中を一定の間隔を保ってたたくと、次第にその声も小さくなっていった。
ジョージは、側の壁にもたれながら、何も言わずただじっと私達のことを見ている。こう言う時の、彼の空気が読める行動は、非常に好まれる。これを自然に、素の状態で出来るから、私は彼に一目を置いているのだ。チャールズ先輩とは、また違う彼の優しさ。ジョージはとても、気遣いやさんだ。
彼女の涙の理由は、幾つかあったが、つまりは、そう言うことだ。無自覚ながらも、ロンくんに最後の手段にされていたことが気に食わなくて、悲しかったのだ。私はなんとなく眩しくなって、彼女の背中で一定のリズムを刻む手を止めた。そして、一度ぎゅっと抱きしめると、私は彼女を立ち上がらせた。
「一緒に談話室へ戻るわよ、ハーマイオニー」
「こんなとこにいちゃ、凍えちまうぜ」
「…はい、」
ぐずぐずと鼻をならすハーマイオニーの手を取って、私は階段を一段上がった。「まったく。ロニー坊やには困ったもんだ」とジョージはにこやかに言う。「せっかくの聖なるクリスマスの夜に、こんなに可愛い女の子を泣かせるとは!」その言葉に、今度はハーマイオニーがくすっと笑った。
グリフィンドール塔の入り口まで来ると、太った婦人が数人の友人と寝息を立てていた。そんな彼女らに「フェアリー・ライト!豆電球!」と三人で叫ぶと、眠たい目を擦りながら『あらあら、ごめんなさいね。わたくしったら…お入り』と婦人は迎え入れてくれた。
「おかえりなさい、レイリさん!」
「レイリ先輩!おきれいですね!写真撮らせて下さい!」
談話室まで行くと、待ち構えていたジニーとコリンに捕まった。その場の流れで、あれよあれよという間にソファーの真ん中に座らされて、カメラを構えたコリンに「ふたりとも、もう少しくっ付いて下さい!」と指示を飛ばされた。ジニー曰く「ママにレイリがちゃんとドレスを着て踊ってくれたか、証拠写真を贈らなくちゃいけなくて」だそうだ。
夜の挨拶をして女子寮の階段を登って行ったハーマイオニーは、すでにここに居らず、頼れるのはほんのりと頬を染めたジョージだけであるが、そんな彼も写真を撮るのには賛成のようで、彼には似合わずぐいぐいと身体を寄せてきた。
何枚かジョージと私のツーショットを撮った後、ジニーが私の隣りに座って「三人で撮って!コリン!」と言って、ピースをしていた。仕方ないなぁ…と半ば諦めて、私も彼女につられるように右手でピースを作る。その頃になると、若干表情の強張っていたジョージも、いつもの調子を取り戻し、カメラに向かって笑顔を向けていた。
「今夜撮った写真は、休暇明けに渡しますね」
「ありがとう、コリン!出来上がったら、ママに送ってあげなくちゃ!」
「「それじゃあ、先輩方お休みなさい!」」
ジニーとコリンは、にこにこしながら階段を上がっていった。ジョージも私も、自然とソファーから立ち上がり、階段を登った。女子寮と男子寮の境まで来ると、いつものように挨拶をして分かれた。と思ったら、グイッと右手を引っ張られて、ボスッとジョージの腕の中へキャッチされた私。え?
「レイリ、今夜はありがとう」
「…こちらこそ。ありがとう、ジョージ」
「…えっと、それじゃあ…な」
「えぇ、おやすみなさ、!」
ふにっと、私の額に何やら温かいものが押し当てられて、ぱっと離れていった。髪の色にも負けず劣らずの、真っ赤に顔を染めたジョージが目の前に立っていて、彼の瞳と視線が絡むと熱っぽい声色で「おやすみ、レイリ」と告げられた。
私は両手で額を押さえながら、何も言えずにただひたすらコクコク頷いて返事をした。あぁ、きっと…私の顔も彼の赤毛に負けず劣らずの色をしているだろう。ジョージがにっと歯を見せて悪戯っぽい笑みを浮かべた後、すたすたと軽い足取りで男子寮へと消えていったが、私はしばらくの間、その場から動けず留まっていたのであった。
20131026
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