万物流転 | ナノ
15.よきせぬ2
男の子たちも、重い腰を上げようやく今夜の準備に取り掛かったのか、私が気付いた時にはもう談話室にはパーティーに参加できない下級生達だけになっていた。そして、何人ものきらびやかなドレスローブをまとった生徒達が談話室を通り過ぎて行く。

「なぁ、レイリよ」
「あれ?リーじゃない…こんなところにいてもいいの?」

話しかけてきたのは、双子の悪友であり、私の兄のような存在であるリー・ジョーダンであった。彼は今、スーツのようなドレスローブを着込み、カチッとした印象を受ける。リーは、親指を立て、背後を指しながら、こっそりと耳打ちしてきた。

「本当に参加しないつもりなのか?」
「…ぅ……ま、まぁ…そのつもりよ」
「ジョージのあの後ろ姿を見てもか?」

先ほど、談話室に残る後輩達のためにとフレッドとジョージは、彼らに素敵なプレゼントを施した。彼らお得意の悪戯グッズを組み合わせた見事な魔法は、後輩達の心をずっと明るくさせた。フレッドの話を聞くところによれば、この魔法は、真夜中の十二時になるまで、ずっと続くらしい。

私達の頭上ではドンドンパフパフとお祭り騒ぎを繰り返すサンタとトナカイが走り回っており、談話室の中央では、まるでスターダストのような粉雪が、キラキラと舞っていた。

そして、極めつけは、二年前のバレンタインを彷彿とさせるような…と言ったら、双子は怒るかもしれないが、可愛らしい羽根をちょこんと付け、申し訳程度に白粉と紅で化粧された庭小人が何匹か空中を漂っていた。

これも、にやにやしたフレッドが教えてくれたことだが、この庭小人達の原産地は隠れ穴だそうだ。なんでも、帰省中のビルに頼んだら、化粧を施した状態で送ってくれたそうな。

「…ま、マクゴナガル先生から、後輩達の面倒を見るように言われてるのよ」

私の言い訳のような台詞に「あぁ、そうかい」と苦い笑みを浮かべたリーは頭をかいた。そして、大きな溜息を吐くと「そんじゃま、留守番頼むぜ…監督生様?」と嫌味を含んだ言葉を残して、太ったレディの肖像画の裏へと続く通路へ向かい、先を歩いていたジョージと一緒に談話室を出て行った。

***

休暇中に出された課題を片付けてしまおうと、私が談話室の一角で勉強をしていると、男の子から声を掛けられた。誰だろう?聞き覚えのある声に振り向けば、そこには正装をしたコリン・クリービーが立っていた。

「先輩!僕をパーティーに連れて行って下さい!」
「…え?」

「先輩には、迷惑をかけませんから!」と言って、必死に頭を下げる彼に、こうやって頼まれていること自体が、すでに迷惑を被っているんだよ…。

そう伝えることができたら、どんなに楽だろうか。でも、私がその事実を彼に述べれば、もしかしたら、彼は泣いてしまうかもしれない。

「僕、僕…ハリーがダンスを踊ってる写真を撮りたいんです!」
「でも、ハリーは写真は苦手だって…」

「写真を撮るのがダメなら――僕、一目見るだけでもいいんです!」
「だけどね、クリービー」
「彼が、踊ってるのを見たいんです!」

「そう言われても…私は監督生として、後輩を見ていなきゃいけないの」
「でも、僕、先輩にしか頼めないんです!お願いします!」

私がなんとかして断ろうとするも、コリンはなかなか引いてはくれず、どんどん声は大きくなって、今では談話室に残る下級生達のほとんどが、こちらに視線を向けているではないか!

あーあーあー、どうしたらいいの?後輩からの頼み事ってどうやって断ったらいいの?誰か打開策をプリーズ!それから、コリンの取扱説明書と攻略ガイドを私に恵んで下さい。切実に!

20130926
title by MH+
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