10.おうえん4
その日は、もしかしたらレイリは、まだ誰からの誘いも受けずにいるかもしれないとジョージを説得するのに費やした。もちのロンで、リーには、ドレスが用意できなくて、パーティーへの参加を辞退するつもりでいるというレイリの事情を説明し、うちの家からドレスが届いていることをちゃっかり説明した。
ジニーから受け取ったその粉雪みたいに美しい純白のドレスの入った箱は、今は俺たちの部屋のクローゼットに保管してあり、ジョージの決心がついたら、片割れがレイリを口説きに行く時に持たせようと、俺とジニー、そしてリーは、あれから三人で談話室の隅っこで相談して決めたのだった。
その夜の談話室では、俺らは暖炉寄りのソファーで三人で寛いでおり、アンジーとアリシア、そしてレイリの三人は休暇中に出された魔法薬学のレポートと格闘していた。
まぁ、魔法薬学の得意なレイリはその課題をあっさりと終わらせてしまい、その後の彼女は専ら残り二人の羊皮紙の行間を埋めるのに知恵を貸していたのだけど。
レイリは、いつものように監督生としての見回りと学期末の始末書の提出、さらに今日は監督生のバスルームで入浴を済ませてくるらしく、かさ張る荷物をコンパクトにまとめて、同じく監督生であるラッドと共に太ったレディの絵画の穴を潜り出て行った。
ハリーとロンは、パートナーを誘うという使命を忘れ去り、今は『爆発スナップ』ゲームのカードを積んで城を作るのに夢中になっていた。その近くの勉強スペースのための机で、ハーマイオニーが魔法薬学のノートから顔を上げて、時折二人に向かって「課題はいいの?見せてあげないわよ?」と声をかけていた。
「ねぇ、ハリー。あなたはもっと建設的なことをやるべきじゃないの?」
「たとえば?」
二度目の爆発を機に、くしゃくしゃの前髪を焦がしたハリーは戦線離脱し、彼はちょうどクィディッチ雑誌を読んでいた。「あの卵のことよ!」ハーマイオニーが歯を食いしばりながら言うと「そんなぁ!」と情けない声をハリーは出した。
そういえば、ハリーのやつ。ドラゴンを倒した第一の課題後のパーティー以来、卵を開けたのを聞いたことがなかったなぁ。ハーマイオニーの話を耳をそばだてて聞いていると、レイリたちは、金の卵から発せられたあのパーシーの歌声の正しい聞き取り方法を解明したらしい。
ホグワーツの六年生のうちでもトップを争う知能を備え持つレイリ。俺らの悪戯のことばかりが詰まった脳味噌とは違って、頭の中には厖大な知恵と知識が詰まっており、その引き出し速度も目から鼻へ抜けるほど素早いのである。
どうやら卵のあのキーキーうるさい声は歌っているらしく、彼らは現在進行形で聞き取った歌の歌詞を調べているのだとか。その話を呆然と聞いていたハリーの隣りでは、ロンが三度目の爆発を起こしており、ロニー坊やの眉毛が焦げた。
げらげらと笑うリーは、そのままにして、うっすらと顔の筋肉のこわばったジョージを引き連れて、ロニー坊や達のいるテーブルへと近付いた。
「男前になったぞ、ロン」とジョージが言うので、それに付け加えるように「おまえのドレスローブにぴったりだぜ、きっと!」とからかってやると、ロニーは眉毛の焦げ具合をハーマイオニーが貸してくれた手鏡を見ながら触って確かめていた。
「ロン、その…ピッグウィジョンを借りてもいいか?」
「だめ。今手紙の配達に出てるんだ。でも、どうしてジョージが?」
眉毛を焦がし、不思議そうな視線を投げてよこす弟に「ジョージがピッグをダンスパーティーに誘いたいからさ」と俺が皮肉って言えば、ジョージは俺を睨み肩を叩いて「俺たちが手紙を出したいからに決まってるだろ。バカチン」と言った。
ちょっとだけ、いつもよりも肩を叩く力が強くて、痛かった。照れているのだろうか。うぶだねぇ、ジョージさん。
そんなジョージの奥からは、リーがその様子をにやにやと見物しており、俺と目が合うと、一層口元に浮かべる笑みを深くした。
「二人でそんなに次々と、だれに手紙を出してるんだ、ん?」
「クチバシを突っ込むな」
ジョージがピシャリと言うので、ロンも口を閉じて、それ以上は追求して来なかった。俺は、話の流れを変えるように「で、おまえたちはダンスパーティーの相手を見つけたか?」と、主にロンとハリーに向かって尋ねた。
「まーだ」ロンが唸るように言うと、ハリーは読んでいた『キャノンズと飛ぼう』を閉じながら「…僕もまだ、だよ」と呟いた。
「なら、急げよ兄弟。さもないと、いいのは全部取られちまう」
「それじゃ、兄貴はだれと行くんだ?」
「アンジェリーナ」
俺が照れもせずに事も無げに言えば、ロンは面食らったように「え?」と声をもらしたのだった。
20130914
title by MH+
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その日は、もしかしたらレイリは、まだ誰からの誘いも受けずにいるかもしれないとジョージを説得するのに費やした。もちのロンで、リーには、ドレスが用意できなくて、パーティーへの参加を辞退するつもりでいるというレイリの事情を説明し、うちの家からドレスが届いていることをちゃっかり説明した。
ジニーから受け取ったその粉雪みたいに美しい純白のドレスの入った箱は、今は俺たちの部屋のクローゼットに保管してあり、ジョージの決心がついたら、片割れがレイリを口説きに行く時に持たせようと、俺とジニー、そしてリーは、あれから三人で談話室の隅っこで相談して決めたのだった。
その夜の談話室では、俺らは暖炉寄りのソファーで三人で寛いでおり、アンジーとアリシア、そしてレイリの三人は休暇中に出された魔法薬学のレポートと格闘していた。
まぁ、魔法薬学の得意なレイリはその課題をあっさりと終わらせてしまい、その後の彼女は専ら残り二人の羊皮紙の行間を埋めるのに知恵を貸していたのだけど。
レイリは、いつものように監督生としての見回りと学期末の始末書の提出、さらに今日は監督生のバスルームで入浴を済ませてくるらしく、かさ張る荷物をコンパクトにまとめて、同じく監督生であるラッドと共に太ったレディの絵画の穴を潜り出て行った。
ハリーとロンは、パートナーを誘うという使命を忘れ去り、今は『爆発スナップ』ゲームのカードを積んで城を作るのに夢中になっていた。その近くの勉強スペースのための机で、ハーマイオニーが魔法薬学のノートから顔を上げて、時折二人に向かって「課題はいいの?見せてあげないわよ?」と声をかけていた。
「ねぇ、ハリー。あなたはもっと建設的なことをやるべきじゃないの?」
「たとえば?」
二度目の爆発を機に、くしゃくしゃの前髪を焦がしたハリーは戦線離脱し、彼はちょうどクィディッチ雑誌を読んでいた。「あの卵のことよ!」ハーマイオニーが歯を食いしばりながら言うと「そんなぁ!」と情けない声をハリーは出した。
そういえば、ハリーのやつ。ドラゴンを倒した第一の課題後のパーティー以来、卵を開けたのを聞いたことがなかったなぁ。ハーマイオニーの話を耳をそばだてて聞いていると、レイリたちは、金の卵から発せられたあのパーシーの歌声の正しい聞き取り方法を解明したらしい。
ホグワーツの六年生のうちでもトップを争う知能を備え持つレイリ。俺らの悪戯のことばかりが詰まった脳味噌とは違って、頭の中には厖大な知恵と知識が詰まっており、その引き出し速度も目から鼻へ抜けるほど素早いのである。
どうやら卵のあのキーキーうるさい声は歌っているらしく、彼らは現在進行形で聞き取った歌の歌詞を調べているのだとか。その話を呆然と聞いていたハリーの隣りでは、ロンが三度目の爆発を起こしており、ロニー坊やの眉毛が焦げた。
げらげらと笑うリーは、そのままにして、うっすらと顔の筋肉のこわばったジョージを引き連れて、ロニー坊や達のいるテーブルへと近付いた。
「男前になったぞ、ロン」とジョージが言うので、それに付け加えるように「おまえのドレスローブにぴったりだぜ、きっと!」とからかってやると、ロニーは眉毛の焦げ具合をハーマイオニーが貸してくれた手鏡を見ながら触って確かめていた。
「ロン、その…ピッグウィジョンを借りてもいいか?」
「だめ。今手紙の配達に出てるんだ。でも、どうしてジョージが?」
眉毛を焦がし、不思議そうな視線を投げてよこす弟に「ジョージがピッグをダンスパーティーに誘いたいからさ」と俺が皮肉って言えば、ジョージは俺を睨み肩を叩いて「俺たちが手紙を出したいからに決まってるだろ。バカチン」と言った。
ちょっとだけ、いつもよりも肩を叩く力が強くて、痛かった。照れているのだろうか。うぶだねぇ、ジョージさん。
そんなジョージの奥からは、リーがその様子をにやにやと見物しており、俺と目が合うと、一層口元に浮かべる笑みを深くした。
「二人でそんなに次々と、だれに手紙を出してるんだ、ん?」
「クチバシを突っ込むな」
ジョージがピシャリと言うので、ロンも口を閉じて、それ以上は追求して来なかった。俺は、話の流れを変えるように「で、おまえたちはダンスパーティーの相手を見つけたか?」と、主にロンとハリーに向かって尋ねた。
「まーだ」ロンが唸るように言うと、ハリーは読んでいた『キャノンズと飛ぼう』を閉じながら「…僕もまだ、だよ」と呟いた。
「なら、急げよ兄弟。さもないと、いいのは全部取られちまう」
「それじゃ、兄貴はだれと行くんだ?」
「アンジェリーナ」
俺が照れもせずに事も無げに言えば、ロンは面食らったように「え?」と声をもらしたのだった。
20130914
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