万物流転 | ナノ
52.めいしん7
私はすっかり冷めてしまった紅茶をテーブルに戻して、写真を撮られまくるロンくんを引っ張り出した。すると、他の選手へと目を向けることにしたスキーター記者は、カメラマンに彼らの写真を撮るように命じた。

デラクール姉妹は眩しそうに目を細め、ダームストラング校代表の二人はカメラが撮影している音に一々肩をびくつかせている。「ハリーが言ってた通り、いやな女だ」と私の隣りで呟いたロンに私も同意しながら、そっと彼の背中を押してハリーの隣りへと戻した。

カメラマンがセドリックの最後の一枚をバシャッと撮り終えたところで、クラムが思い腰を上げ「ここに用はないはずだ!」と記者達に向かって怒鳴った。その声にビクッとなったスキーターは宝石のちりばめられた眼鏡をズルッと落っことした。

「ここは、代表と友人のテントだぞ」

さらにクラムは語気鋭く記者に迫ると、眼鏡を拾い上げ掛け直した彼女は「ま、まぁ。いいざんすわ…欲しい写真は撮れたから」そう言って奥に引っ込んだ。タイミングよく「代表の諸君、集まるのじゃ」とダンブルドアの声がして、クラウチ氏や各学校の校長先生がテントの中へぞろぞろ入ってきた。

「いよいよ待ちに待ったこの時が、ついにやってきた。選ばれた者だけが参加できるのじゃ…おや、君は何をしておる?」

「あ、あの…すみません」

ハリーの隣りに立っているハーマイオニーを見つけたダンブルドア校長が、彼女に向かって咎めるような口調で言うと、消え入るような声で「出ます…」と言って彼女はここから立ち去った。

彼女がテントを出て行くのを、名残惜しそうな目をして見つめていたクラムを見つけて、私はピーンときた。ほう、そういうことか。彼がハーマイオニーをねぇ…

「バーティ、袋を」
「諸君、ここに輪になって…ミス.デラクール、こちらへ。それから、ミスター.クラム…あぁ、ミスター.ディゴリーはそのままでいい…ミスター.ポッター、君はここ」

クラウチ氏は、紫色の絹の袋の口を開けた。そこからはモクモクと白い煙が立ち上る。代表選手は彼を挟んで丸くなり、彼らの助手はそれぞれ選手の右側へと並んだ。私の右にハリーが緊張した面持ちで立っており、目が合うとぎこちない笑みが返ってきた。

「さて、ミス.デラクール選んで…――ウェールズ・グリーン種」

フラーが震える手を袋に入れて、パッとすぐに袋から手を引っこ抜いた。彼女の手には威勢の良い滑らかな緑色をしたドラゴンが握られており、その模型のドラゴンはボーッと口から細かい炎を吐いたので、妹デラクールが「きゃ!」と悲鳴を上げた。

「ミスター.クラム――中国火の玉種だ」

クラムはむっつりとしながら、袋に手を突っ込みかき混ぜるようにして一匹の真っ赤なドラゴン:チャイニーズ・ファイヤボール種の模型を取り出した。

「さあ、ミスター.ディゴリー。次は君の番だ…」

セドリックが、クラウチ氏から紫の袋を差し出された。彼は、一度私の方へ視線を向けてじっと私の瞳を見つめた。私がこくっと頷くと彼も真剣な顔をして頷き、袋の中へ手を入れた。

「――スウェーデン・ショート-スナウト種」

彼が引き当てたのは、青みがかったグレーのドラゴンだった。ハリー達に残ったのは(ホーンテールだ!)怯えたような囁き声がハリーとロンの口から零れ、二人で目を見合わせている。

「何か言ったか?」
「いえ、何も!」

「ミスター.ポッターはハンガリー・ホーンテールに決まった」

ハリーの手の上で、小ちゃなミニチュアホーンテールが、両翼を広げて牙をむいた。クラウチ氏から紫の絹の袋を受け取り、ドラゴンの模型の回収にあたるフィルチ氏。彼の長く痛んだ髪の毛が、クラムの引き当てた中国火の玉種を受け取った時に、その模型が吐いたキノコ型の炎によって焦げると、嫌なにおいがした。

「これは、実在のドラゴンの模型だ。いずれのドラゴンも金の卵を守っている。諸君の課題は、その卵を取ること。卵の中に次の課題のヒントが込められている。…これがなければ次に進めん」

「選手一人で参加するも良し、助手と協力するのも良し。どちらか一択じゃ。しかし、一度決定したことは覆らん。よくよく考えて、どのように出場するかを選ぶのじゃ。それでは健闘を祈る」

20130908
title by MH+
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