万物流転 | ナノ
45.ざれごと
十一月に入り、マフラーと手袋が手放せなくなってきた。その頃になると、ボーバトンの女子生徒達も学習したようで、淡いブルーの色をした薄手の制服に加えて分厚いコートを羽織り、その首にはぐるぐると制服と同じ色のマフラーを巻き付けていた。

最近のセドリックは、いつもファンの女の子に取り囲まれているのをよく見かける。この間なんかは、二件の告白に遭遇してしまった。と言うのも、いくら選手と助手が期末テストを免除されると公約されていても、私たち監督生の仕事が免除される訳ではなかったからだ。

私がたまたま空き教室の見回りをしている時、セドリックと誰かの「あなたのことが好きです!」という声が聞こえてきて、気を聞かせてその教室の前を過ぎ去ってしまえば良かったものを、彼がどんな女の子に告白されているのか気になった私は、見たい知りたい確かめたい!という好奇心に負け、教室の扉を片目で見えるくらいの隙間を開けて中を覗いてしまった。

そこには、レイブンクローと思われる長い黒髪が綺麗な女子生徒と、困ったような顔をしたセドリックが黒板の前で立っていた。セドリックが二言か三言、口を開いて彼女に何やらを言うと、わっと泣き出した女の子が、私の覗いている扉の方へ駆けて来るのが見えた。

そこでやっと、彼女の顔を見ることができた。彼女は、レイブンクローの五年生であり、鷲寮のクィディッチ代表チームのシーカーに選ばれているチョウ・チャンその人だった。私はその場から飛び退き、気配を絶ち天井へ張り付いた。その直後、扉は開きぱたぱたと泣きながら彼女が去って行くのが見えた。

彼女の後ろ姿が遠い廊下の先の角を曲がって行くのを確認してから、私は元の場所へ下り立ち、素知らぬ顔で部屋の扉に手をかけた。「空き教室で何をしているのかな?」白々しいかとも思われたが、教室へ身体を滑り込ませて、近くの壁にもたれてセドリックへと問いかけた。

彼は、しゃがんで片手で顔を覆っていた。私の声に吃驚して顔を上げると「い、今の見てた!?」焦ったように口を開いて、グンッと勢いよく立ち上がった。「私が見たのは、黒髪の女の子がこの教室から飛び出して行く姿だけだよ」そう言いながら彼に近づくと、ほっと胸を撫で下ろしているところだった。

「告白受けてたんだ…やっぱり、モテる男の子は違うね」
「僕は!…僕はそんなんじゃないって!」

「さっきの子、レイブンクローだったよね?…セドリックも隅に置けないねぇ。あんな可愛い子を振っちゃうなんてさ」

私がからかうように肘で彼の脇腹を突けば、言い訳をするようにあれやこれやと口を開いて、最後に私が聞き取れるか聞き取れないかくらいの小さな声で「好きな子からじゃなきゃ、意味がないよ」とぼそぼそ呟いた。

20130906
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