万物流転 | ナノ
20.あめのひ
しばらく集中して本を読んでいた。一向に、アラスターがこの場所へ姿を現す気配はなく、約束の時間も過ぎてしまった。これ以上、彼を待つことによって足留めを食うのは、時間の無駄に思える。(どうして迎えに来てくれないのだろう?)私は、アラスターにムッとしながら、走り書きを残した。

***

私は先に行きます。
ギリギリまであなたを待っていたのですよ!何か不都合があったのなら、連絡してください。心配しています。

U

***

多少、文字が荒れてはいたが、この字を見て、彼も私の心情を理解してくれるだろう。そう思って、オーナーにアラスターがこの店へ訪れた時にこれを渡すようにお願いをして、私は店を出た。

キングス・クロスに到着したのは、特急の出発時刻の三分前。大急ぎでいつもの壁を通り抜けて、赤いホグワーツ特急に身体を滑り込ませた時、背後ではピシャリと扉が閉まった。

「ナイス滑り込み乗車」
「…え?」

「お疲れ、レイリ」
「…濡れてるから撫でないでよ」

ぱっと視線を上げたそこにいたのは、ジョージとリーだった。その奥には、窓から身を乗り出すフレッドが何事かを叫んでいたけれど、私には聞こえなかった。加速する車内から、ホームへちらりと視線を向けるとモリーさんと、ビル、チャーリー先輩が手を振っていた。

私に気付いたビルが、隣りに立って手を振るチャーリー先輩の肩を突き「レイリ、レイリ」と彼の口が動いたので、私がフレッドやジョージ達と一緒にいるのを教えたのだろう。遠ざかる景色に、二人が私へと笑顔で手を振る姿が見えた。

「レイリが遅刻ぎりぎりなんて、珍しいんじゃねぇの?」
「まぁね。ちょっと事情があってね…」

私の頭から手を離したリーは、意外そうな顔をして言う。私は朝の出来事を思い返して、まだまだ怒りと心配する気持ちが六対四の割合で心の中に残っているのを感じて顔をしかめる。

大雨の中を走ってここまで来たので、ローブはしぼれそうなくらいに水気を含み、長い髪も顔にぺったりと張り付いているのが気持ち悪い。

「びしょびしょだね。僕のタオル…使う?」
「え。いいの?…それじゃあ、お言葉に甘えて。洗って返すね」

ジョージが消えたかと思うと、またすぐ戻ってきて、白いタオル(Gの刺繍入り)を差し出した。私は、彼の好意に甘んじてそれを受け取り、がしがしと髪の毛から滴る水分を拭き取った。

そのうちに、フレッドがこちらに来て、濡れ鼠の私を指差して笑うと、他の二人にもその笑いは感染し、私は非常に不愉快な気分にさせられた。

私が機嫌悪を露に彼らを睨むと、目尻に涙を溜めたリーが「わるいわるい、ほら、タオル貸せって…そんな拭き方じゃ、髪の毛痛めんぞ」と言って私からタオルを取って優しい手付きで拭いてくれた。今日のリーのお兄ちゃん度合いは、安定の100%です。

荷物は、ジョージが運んでくれて、私は彼らのコンパートメントに案内された。彼らに声をかけて私は恒例の監督生の顔合せへと向かう。そしてそこで、七年生の先輩監督生に乾燥呪文をかけてもらい、事無きを得たに思われたが、私は再び頭から冷水を被ることになり、それが原因で、私は学期初めの三日間を医務室で過ごすことになってしまうのであった。

お恨み申し上げます!アラスター!

20130830
title by MH+

*titleがかぶるのは、あるあるです
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