13.まぶしさ3
しばらく個室で待機していると、何かが始まった。これだ!と思い、トイレを飛び出すと、そこには逃げ惑う人々の群れと、火を吹き燃え上がるテントが見えた。その炎に照らされて恐怖に引き攣る人々の顔がありありと浮かび上がっている。
叫び声や泣き声が何処からともなく聞こえ、目を凝らすと、人々の群れの奥に仮面をつけ喪服のようなローブに身を包み、構えた杖からは緑色の怪しげな光が噴き出している集団が見えた。あれこそ、まさにデスイーターだった。私はギリッと唇を噛み、これ以上火の手が回らないよう盾の呪文を唱える。
気休めにしかならないかもしれないが、無いよりはマシだろうと思い群衆の頭上にパトローナスで銀白色の大鴉を作り出した。それが、人々の視線を奪いながら彼らの頭上を旋回している間に、喉に杖先を当てソノーラスを唱えた。『この鳥が皆さんを安全な場所へ案内する!とにかく皆さん、落ち着いて!子供を連れてる人は手を離さないで!老人には手を貸して避難しなさい!』私は声の限り叫んだ。
この声に反応して、一層大きく羽搏いた大鴉はスィーッと群衆の最後尾から先頭までを飛んで、森のはずれの方へ飛んで行った。「走れ!走れ!」男の声が響く。「ママの手を離しちゃだめよ」幼い子供に言い聞かせる母親の声がする。「あっちだ!あっちが安全だ!」また誰かの声がした。
非難して行く人々の群れを尻目に私は燃え上がるテントの消火活動を始めた。そして、中に取り残されている人やペットはいないか。また、この騒ぎに乗じて盗みを働く愚か者はいないかの確認を始めた。どうやら、この近くに逃げ遅れた人や他の生き物はいないようだ。
ぎゅっと目を閉じて念じると、私の両目は紅く染まる。写輪眼を発動すると、まるで脳髄から背骨をビリビリと電流が走るみたいな刺激が私を奮い立たせる。ここは戦場だ。自分の命を守れるのは自分しかいない。じっと周りを睨み付けるように見渡すと、非難した人々が溜まる森の外れの奥の奥に、異質な魔力を発する者が見えた。
(あいつ…何を――!)
その近くには、見知った三つの魔力の流れが視認できた。私は瞬身の術でその場から飛んで、彼らのいる場所へと暗い森の中を駆けた。(なんで?どうしてあの子達があそこに?)一抹の不安を感じながら、私は急いだ。間に合え。間に合え!
すると、黄緑色の閃光が真っ暗な空に打ち上げられて、みるみると巨大な髑髏を形作った。さらに、その髑髏の口からは、まるで舌のように蛇が這い出してきている。「あれは――闇の印!」その光景に、私は戦慄を覚えた。
鋭い視線を空に送りながら走り、目的地まであと数メートルと言うところで、私の写輪眼が捉えたのは二十人もの魔法使いに囲まれたハリー、ロン、ハーマイオニー達の姿。魔法使い達は皆一斉に杖腕を振り上げているのが見えて、私は紺藍のローブを翻して彼ら三人の前に飛び出した。
「伏せろ!」ハリーの声と「麻痺せよ!」二十人の声と「プレテゴ!」の私が呪文を唱える声がこの暗い森に響いたのはほぼ同時だった。魔法使い達が持つ杖先からはまるで炎のような赤い光が発射され、私の出した盾によって跳ね返って行くのを後ろの三人は地面に倒れ込みながら見上げている。
「やめてくれ!わたしの息子だ!」
アーサーさんが真っ青な顔をして、周りを囲む魔法使い達を押し退けながらこちらへやってくるのが見える。総勢二十人の魔法使い達がその声に反応して彼に振り向いている間に、私は写輪眼を引っ込めた。
「どけ、アーサー」
無愛想な冷たい声で言ったのは、国際魔法協力部部長であり、パーシーの上司でもあるバーテミウス・クラウチ氏だった。アーサーは、うずくまる子供達の方まで歩いてきて、彼らを守るようにバーテミウスら魔法省の包囲網の中に立った。
20130826
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しばらく個室で待機していると、何かが始まった。これだ!と思い、トイレを飛び出すと、そこには逃げ惑う人々の群れと、火を吹き燃え上がるテントが見えた。その炎に照らされて恐怖に引き攣る人々の顔がありありと浮かび上がっている。
叫び声や泣き声が何処からともなく聞こえ、目を凝らすと、人々の群れの奥に仮面をつけ喪服のようなローブに身を包み、構えた杖からは緑色の怪しげな光が噴き出している集団が見えた。あれこそ、まさにデスイーターだった。私はギリッと唇を噛み、これ以上火の手が回らないよう盾の呪文を唱える。
気休めにしかならないかもしれないが、無いよりはマシだろうと思い群衆の頭上にパトローナスで銀白色の大鴉を作り出した。それが、人々の視線を奪いながら彼らの頭上を旋回している間に、喉に杖先を当てソノーラスを唱えた。『この鳥が皆さんを安全な場所へ案内する!とにかく皆さん、落ち着いて!子供を連れてる人は手を離さないで!老人には手を貸して避難しなさい!』私は声の限り叫んだ。
この声に反応して、一層大きく羽搏いた大鴉はスィーッと群衆の最後尾から先頭までを飛んで、森のはずれの方へ飛んで行った。「走れ!走れ!」男の声が響く。「ママの手を離しちゃだめよ」幼い子供に言い聞かせる母親の声がする。「あっちだ!あっちが安全だ!」また誰かの声がした。
非難して行く人々の群れを尻目に私は燃え上がるテントの消火活動を始めた。そして、中に取り残されている人やペットはいないか。また、この騒ぎに乗じて盗みを働く愚か者はいないかの確認を始めた。どうやら、この近くに逃げ遅れた人や他の生き物はいないようだ。
ぎゅっと目を閉じて念じると、私の両目は紅く染まる。写輪眼を発動すると、まるで脳髄から背骨をビリビリと電流が走るみたいな刺激が私を奮い立たせる。ここは戦場だ。自分の命を守れるのは自分しかいない。じっと周りを睨み付けるように見渡すと、非難した人々が溜まる森の外れの奥の奥に、異質な魔力を発する者が見えた。
(あいつ…何を――!)
その近くには、見知った三つの魔力の流れが視認できた。私は瞬身の術でその場から飛んで、彼らのいる場所へと暗い森の中を駆けた。(なんで?どうしてあの子達があそこに?)一抹の不安を感じながら、私は急いだ。間に合え。間に合え!
すると、黄緑色の閃光が真っ暗な空に打ち上げられて、みるみると巨大な髑髏を形作った。さらに、その髑髏の口からは、まるで舌のように蛇が這い出してきている。「あれは――闇の印!」その光景に、私は戦慄を覚えた。
鋭い視線を空に送りながら走り、目的地まであと数メートルと言うところで、私の写輪眼が捉えたのは二十人もの魔法使いに囲まれたハリー、ロン、ハーマイオニー達の姿。魔法使い達は皆一斉に杖腕を振り上げているのが見えて、私は紺藍のローブを翻して彼ら三人の前に飛び出した。
「伏せろ!」ハリーの声と「麻痺せよ!」二十人の声と「プレテゴ!」の私が呪文を唱える声がこの暗い森に響いたのはほぼ同時だった。魔法使い達が持つ杖先からはまるで炎のような赤い光が発射され、私の出した盾によって跳ね返って行くのを後ろの三人は地面に倒れ込みながら見上げている。
「やめてくれ!わたしの息子だ!」
アーサーさんが真っ青な顔をして、周りを囲む魔法使い達を押し退けながらこちらへやってくるのが見える。総勢二十人の魔法使い達がその声に反応して彼に振り向いている間に、私は写輪眼を引っ込めた。
「どけ、アーサー」
無愛想な冷たい声で言ったのは、国際魔法協力部部長であり、パーシーの上司でもあるバーテミウス・クラウチ氏だった。アーサーは、うずくまる子供達の方まで歩いてきて、彼らを守るようにバーテミウスら魔法省の包囲網の中に立った。
20130826
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