万物流転 | ナノ
6.ともだち3
私の案内された部屋は、セドリックの向かいの場所にあった。造りはセドリックの部屋を左右逆したのと同じで、窓際にベッドがあり、箪笥、テーブルなどの家具が粗方揃っていた。

「この部屋は今朝僕が掃除したんだよ」と全く嫌みではなく自慢げに語るセドリックに「わざわざ、どうも」と言いながら、例のチョコとキャラメルのクッキーを手渡せば「ありがとう!」と言われて飛びつかれた。

「あ。デジャビュ?」と思う間もなく、自分よりも背の高い彼を小柄な私が支えられるはずもなく、私達は床に倒れ込んだ。受け身をとれず、思いっ切りゴツンと床に後頭部をぶつけた私は、目の前で星が回った。

「ご、ごめん!レイリ大丈夫?」
「…セドリックが、今すぐ上から退いてくれるなら、だいじょうぶに、なる」

パッと頬を染めたセドリックが、まるで猫のようにサッと私の上から飛び退くと、起き上がろうとする私の手を引っ張って立たせてくれた。こう言う時でも紳士なのは、彼のデフォルトです。

それから夕食までの時間を、私は彼の部屋でいろんな話をして過ごした。監督生の仕事のこと、ふくろう試験の結果のこと、将来の進路のこと、クィディッチのこと…とにかく色々だ。

一番彼が盛り上がったのは、やはり甘いものを売るお店の新商品のことで、彼の話を聞く限りでは、ディゴリー家の人々は甘いものが大好物なんだそうだ。

…ロールケーキを買って行って正解だったな。





夕食の時間になると、一階から女性の声が聞こえてきた。「あ、母さんだ」ぽろっと口に出したセドリックは「レイリ、行こう」と私の手を取って、彼の部屋を後にした。

リビングの扉を開けると、何とも言えない良いにおいに、ぐぅとお腹が鳴った。隣りからクスクスと笑う声が聞こえてきて、ちょっと恥ずかしくなったけど、私も笑った。

セドリックのお母さんは、風邪のせいでちょっと顔色が悪かったけれど、とても美人だった。多分、セドリックにはこのご両親から、彼らの良いところばかりが受け継がれたんだろうなぁ。

食事が終わり、私がお土産に買ってきたロールケーキを食べるデザートの時間がやってきた。また、ディゴリー夫人はフルーツの盛り合わせも準備して下さっていたので、私はそれらを皿に取ってもりもり食べた。瑞々しい桃が最高に美味しかった。

三十センチほどあったロールケーキは、今や跡形もなくお三方のお腹の中へと消費されていて、紅茶を飲んで彼らが一息ついたところで、私はお母様から主に息子と私がどういった関係なのかを詳しく質問攻めされて戸惑ってしまった。

セドリックは赤い顔をしながら母親に非難めいた声色で「母さん、止めてよ!」と言った。エイモス氏は「わたしもその話が聞きたいね」と乗り気で、彼らの向かいに座るセドリックと私はお互いに顔を見合わせた。

翌朝になって私が朝食の準備をお手伝いしている時に「ごめんね、レイリちゃん。おばさん昨夜は興奮しちゃって…」と照れ笑いを浮かべながら謝られた。その顔が、セドリックそっくりだなと思った私は「いえいえ」と微笑んで返した。

息子の浮ついた話など耳にしたことがなかった夫人は、はじめてホグワーツの友人を家に連れてきたと思ったら、その相手がまさか同級生の女の子ではないか!と衝撃を受け、もしかしたら?と期待に胸を膨らませ、私に息つく暇を与えないくらいに質問したらしい。

日曜日は、早い時間に床に入った。なにしろ明日は朝の二時起きでポートキーのある遠い丘の頂きまでを登らなければならないからだ。ホグワーツ以外のクィディッチチームについて、何も知識を持ち合わせていない私であったが、月曜日の決勝試合はとても楽しみだった。

20130824
title by MH+
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