万物流転 | ナノ
49.ゆるすよ3
人狼となったルーピン教授は近寄ってきたシリウスと目の前にいた私を突き飛ばして、穴へと走った。私は咄嗟に受け身を取れたが、シリウスは違ったらしく岩に身体を強か打ちつけた。

教授の姿が完全に見えなくなってから、私とハリーはシリウスに駆け寄った。二人で彼をロンとハーマイオニーのいる場所へ運ぶと、私は彼の治療を始めた。

どうやらシリウスは、突き飛ばされた時に爪で引っ掻かれたらしい。左肩には三本の血のにじむ線が…。じわじわと傷口は塞がっていくが、破れた繊維は直してあげられなかった。

「皆、よく聞いて。私はじきに薬に含まれるトリカブトの影響で嘔吐と呼吸困難の症状により喋る暇がなくなるだろう」

現に今も息が乱れてきているし舌がヒリヒリしていて喋り辛い。ハリーとロンの二人は「えっ!?」と弾かれたように顔を上げる。ただ、ハーマイオニーは泣きそうな顔をして自分の手をぎゅっと握っていた。

「それから、シリウスは…魔法省にペティグリューを引き渡し、あの事件の日の本当のことを伝え、それが認められるまでは罪が晴れないから、彼はホグワーツ城で牢屋へ入れられることになるだろう。彼の無実を証明するにも十三歳の子供達がいくら大人達へ真実を言っても信じてもらえない。分かるね?」

三人はそれぞれ悔しそうに顔を歪ませる。ハリーは意識を失い横たわるシリウスの手を握った。

「だから、これをダンブルドア校長先生と魔法大臣のコーネリウス・ファッジに渡してもらえるかな?」

私がそう言いながら、震える手でローブのポケットから紫色の封筒に金字で宛名の書かれた手紙を取り出した。ダンブルドア宛てのものをハリーに、魔法大臣宛てのものをハーマイオニーに渡した。「ロン。二人には、決してこれを一人で開けないように言っておいてくれるかな?」と私が言えばコクンと頷いた。

「さて、身体が動くうちにこの厄介なスネイプ教授を運ぶとするよ。君達は、大人が来るまでここでじっとしてるんだよ?怪しい動きをしたら、あの恐ろしい吸魂鬼が君達を襲ってしまうかもしれない…このようにね、エクスペクトパトローナム!」

私か、ハリーか、それともシリウスか。その三人のうちの誰かに引き寄せられたディメンターが暴れ柳の彼方にぽつぽつと浮かんでいる。私は杖を振り上げ守護霊の呪文を唱え、銀色の鴉を向かわせた。

「ハリー、これの使い方は十分心得ている。そうでしょう?」と振り向き様に言えば「は、はい」とやや緊張気味な返事が帰ってきた。私はふっと笑みを零し、眠るスネイプ教授の手を取った。

「それじゃあ、お先にね」私は瞬身の術でその場から姿を眩ました。私は彼を教授の自室へ運び込んで、奥の部屋のベッドに横たわらせる。枕元に「ごめんなさい」と置き手紙を残して部屋を静かに出た。

20130819
title by MH+
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