39.うらぎり6
しばらくして、クルックシャンクスがぱっと私のマフラーを離した。やっと、普通の姿勢に戻れると、私はぐっと伸びてから腰をたたいた。その時、ゴキッと鈍い音がした。ぱきぱきっと複数の枯れ葉や枝を踏む音が聞こえて、オレンジ色の猫と真っ黒な大型犬が林の奥からやってきた。
黒犬は私の姿を確認すると、確認するようにオレンジの猫クルックシャンクスへ鼻を向け何やら思案顔だ。吐き出す息がこんなにも白く森の中はとても寒いのにいやーな汗が背中を伝った。
クルックシャンクス(長いので、これからクーと呼ぶことに決めた)は、私の足元まで歩いてきてくるっと一回私の周りに円を描き右隣に行儀よく座った。それが何の合図だったか知らないが、黒犬は一度吠えて私をじっと見つめてきた。
「クー氏よ、彼は君のお友だちかい?」私がクーを抱き上げるために一旦犬から目を離して足元へしゃがむ。そして、もさもさしたオレンジの毛の感触を楽しみながら撫でる。よっこらしょ、とクーを抱き込めて視線を黒犬に戻すと、そこにはもう犬の姿はなく、代わりに――
「騒ぐな、わたしはお前に危害を加えない、じっとしてろ」
ぞろぞろと髪を伸ばしてみすぼらしく薄汚いぼろぼろのローブを着た成人男性が立っており、バッと私の口を手で押さえて痛いくらいに私の肩を握った。間近で見るその灰色の目は、ぎらぎらと光っている。
「杖を持っているな、貸せ」
男は私の身体をまさぐって、ズボンのポケットから杖を抜き出した。その時には、彼の手は私の口から外されており、私はようやく肺いっぱいに酸素を吸うことが出来た。
「すまないが、少しだけ、眠ってもらう」
反応する間もなく、眠りの呪文が身体に当り私は事切れたかのようにその場へ崩れようとする。それを、目の前にいるその男が防いで音もなく横抱きにした。
男はホグワーツに通う生徒に手荒な真似をしてしまった後悔と、勇敢なる賢き猫に助けられ、己の妄執からの脱出、そして怒りと憎しみに沸き立つ使命感に心から震えていたのだった。
20130817
title by MH+
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しばらくして、クルックシャンクスがぱっと私のマフラーを離した。やっと、普通の姿勢に戻れると、私はぐっと伸びてから腰をたたいた。その時、ゴキッと鈍い音がした。ぱきぱきっと複数の枯れ葉や枝を踏む音が聞こえて、オレンジ色の猫と真っ黒な大型犬が林の奥からやってきた。
黒犬は私の姿を確認すると、確認するようにオレンジの猫クルックシャンクスへ鼻を向け何やら思案顔だ。吐き出す息がこんなにも白く森の中はとても寒いのにいやーな汗が背中を伝った。
クルックシャンクス(長いので、これからクーと呼ぶことに決めた)は、私の足元まで歩いてきてくるっと一回私の周りに円を描き右隣に行儀よく座った。それが何の合図だったか知らないが、黒犬は一度吠えて私をじっと見つめてきた。
「クー氏よ、彼は君のお友だちかい?」私がクーを抱き上げるために一旦犬から目を離して足元へしゃがむ。そして、もさもさしたオレンジの毛の感触を楽しみながら撫でる。よっこらしょ、とクーを抱き込めて視線を黒犬に戻すと、そこにはもう犬の姿はなく、代わりに――
「騒ぐな、わたしはお前に危害を加えない、じっとしてろ」
ぞろぞろと髪を伸ばしてみすぼらしく薄汚いぼろぼろのローブを着た成人男性が立っており、バッと私の口を手で押さえて痛いくらいに私の肩を握った。間近で見るその灰色の目は、ぎらぎらと光っている。
「杖を持っているな、貸せ」
男は私の身体をまさぐって、ズボンのポケットから杖を抜き出した。その時には、彼の手は私の口から外されており、私はようやく肺いっぱいに酸素を吸うことが出来た。
「すまないが、少しだけ、眠ってもらう」
反応する間もなく、眠りの呪文が身体に当り私は事切れたかのようにその場へ崩れようとする。それを、目の前にいるその男が防いで音もなく横抱きにした。
男はホグワーツに通う生徒に手荒な真似をしてしまった後悔と、勇敢なる賢き猫に助けられ、己の妄執からの脱出、そして怒りと憎しみに沸き立つ使命感に心から震えていたのだった。
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