「…ねえ、聞こえてる?」
「…今日でこの屋敷を出るの。ずっと来れなくてごめんなさい。」
「今年で私、十八でしょう?だからもう誰かと結ばれるなんて思っていなかったわ。」
「でも、私にも、こんな私でも受けとめてくれる方がいらしてね。その方のお嫁に行くの。」
「急なお話だったから、家の中が忙しなくって。それで、」
「それでね、明日式を挙げるの。とっても素敵な、英国製のドレスを繕ってくださって…」
「採寸も私にしか着られないものなのよ。すごいでしょう?私、本当に幸せ者だわ。」
「それもこれも、あなたのお陰だわ。本当に感謝しています。」
「あなたがいなかったら、きっと私、私の事好きになれなかった。ずっと性根が腐った、ただの雑草に成り果ててたわ。」
「――白藤、ありがとう。」
「誰と話してるんだい?」
「あ、えっと…」
「ははは。以前話をしてくれた、白藤くんのことかい?」
「ええ、そうよ。最後に話でも出来ればと思って来てみたんだけど…」
「彼に拗ねられたってことかな?」
「そうかも…どうしましょう」
「そう気を沈ませることはないよ。また時間をつくって来ればいいだけのことさ。」
「でも、いつ帰ってくるかわからないわ、だって、私あなたのご実家へ…」
「僕の実家である英国へ行くんだから、ね。大丈夫。これだってまだ息はしているんだし、何年か経って思い出した時に来ればいいのさ」
「そう…そうね。ありがとう。クリス、愛しているわ。」
「どういたしまして、藤乃。僕も愛してる。」
<<< mae ∵ tugi
>>>