帰り道をなくしたあなたの顔を覗きこんで、不器用に笑った僕を覚えていますか?
「あなたのおなまえは?」
(僕に名前はありません。)
「へんなの!」
(…と言われましても。)
「じゃあ、同じのをあげる。私の名前と一緒の字!」
(え?同じ、一緒の字?)
「そうよ。この花は、――と言うんですって。私のこの字と一緒よ!」
(…この月に咲くものなのですか?)
「本当だったらね。それで、だから私もこの字をいただいたのよ。」
(…でも、)
「え?」
(…)
「話すなら話してよ!うじうじしてないで頂戴!男の子でしょう!?」
(!……っでもこの花はいつも、ここに、月も季節も変わっても咲いています…)
「そういえばそうね。でも、それがなあに?」
(…!)
「いつでも私とあなたの花が咲いているのよ?それが見れるのは嬉しいし、私はとっても幸せものだわ!」
(…ぼ、僕も、おんなじです。)
「…でしょ!」
(…はい)
思い出話に花を咲かせるだけの、簡単な僕の現実逃避行。
お嬢様は、この年で十と七つを数える。
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