花は逞しく



お嬢様が僕を見つけてくださったのは、まだお歳が十になる前でございました。





大きな古いお屋敷に越されてきた貴方様は、とてもはしゃいでらっしゃいましたね。
可愛らしいお声で、「かくれおに!」と仰っては、お父上様とお母上様、そして召使い達を困らせていたのを今でも覚えております。
越されたばかりでまだ家の様子が分からない召使い達を、それは楽しそうに、物陰から笑ってらっしゃったことも、遠くからではございましたが知っております。



古くて大きなお屋敷の、その広い庭の奥。
紫に囲まれたその中に、僕はいました。


いつ生まれたのかも、自分は何という名前かも知らない、そんな僕。。
いつからそこにあったのか、それも覚えもしない腰掛けにただ座って、うつりゆく季節と年月を眺めるだけの、僕でございました。




そんな僕をお嬢様は、そう、お嬢様のお生まれになったあの日。十と二つを数えるお歳になられた日。
社交ばかりのお誕生日会がつまらなくなって、お屋敷を抜けだされて、手入れがまだ行き届いていないここへ迷われて。


僕を見つけたお嬢様は、まるで探し求めた宝物を見つけたような、そんなお顔でいらして。
今のいままで涙を浮かべて、べそをかいてらしたのに、そんなことは何のその。
その陶器のような真っ白な頬をほう、と唐紅に染めて、ゆっくりと息を吐くように、ひとこと。






「きれい」






それが、僕の世界に色が生まれた瞬間でございました。
















∵ tugi >>>

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テーマ「人外ファンタジー」
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