あー、キモいキモいキモい!どうしよう全身から鳥肌が立ち止まねぇ・・・!

尻尾の毛が激しく逆立つのを感じながら全力で走っていると、廊下の曲がり角で何かとぶつかってしまった。咄嗟に両手で耳を隠して確認すると、そこには唖然として固まっている凌空の姿が。

「凌空・・・」


チッ、また厄介な奴と会っちまった・・・。つぅかもうすぐ授業始まるっつうのに、何でこんな所に居るんだこいつ。
とりあえず早くこの場から立ち去りてぇ。

そうは思うものの、凌空は俺の気持ちに気付くことなく話し掛けてくる。


「悠くん?何でこんなとこに・・・授業始まるぜ?」
「それはこっちの台詞だ」
「俺は部活の試合のことで職員室に呼ばれてたんだ。ていうか悠くん、頭痛いの?」


・・・もうお前ほんと空気読めよ!馬鹿じゃねぇの!?頭いてぇときに両手で押さえる訳ねぇだろうが・・・ってそんなことは今どうでも良くてだな。

今この状況からどうやって抜け出すか、だ。とりあえず・・・

逃げるか。


「え、ちょ!?悠くん!!?」


そうと決まれば話は早い。くるりと方向を変えて走り出せば、後方から凌空の戸惑ったような声が聞こえる。
・・・悪いな、凌空。今の俺はテメェと呑気に話している余裕はねぇ!


「ちょっと悠くん!何でいきなり走りだすんだよ!」
「って、何着いてきてんだよ!」

バタバタと両手で頭を押さえたまま走っていると、結構な至近距離で凌空の声が聞こえた。慌てて後ろを向くと、そこには当然の如く凌空の姿が。
・・・さすがサッカー部エースとでも言おうか、足の速さは並大抵のモンじゃねぇな。つぅか頭押さえながら走るのって難しいんだよ!


「あーもう、マジで着いてくんにゃテメェ!気持ちわりぃんだよストーカー野郎!!」
「大丈夫、俺分かってるから!ただの照れ隠しだもんな!」
「ちげぇぇえええ!!!」
「ところで悠くん、その尻尾何?」

「は?」


凌空の言葉にピタリと足を止める。

し、っぽ・・・・・!!
漸く凌空の言葉が理解できて、慌てて頭から手を離して尾骨辺りから生えているふさふさの尻尾をガッシリと掴んだ。


「ねこみみ・・・?」


・・・ああもう、俺は馬鹿か!!尻尾に手ェやったら耳が出るに決まってんじゃねぇか!

もうこうなったら何も言い訳できねぇ・・・。
仕方なく腹を括って口を開こうとした瞬間、いきなり凌空が飛び付いてきた。


「ぐお!?」
「悠くん可愛いぃぃいいいいいっ!!!えっ何その猫耳可愛いすぎるんだけど!もう何なの悠くんそんなに俺に食べられたいの!?よしきた任せろ俺がお前を骨の髄までしゃぶりつくしてくれるわぁぁあああ!!!」
「キメェよ!!!!」
「うげふ!!!」


余りの気持ち悪さに勝手に膝が凌空の金玉を捕えてしまった。
金玉蹴られんのは想像も絶する痛みだ。それは俺も何度か経験したことがあるからな。

ほら、凌空だって金玉押さえたまま蹲ってるし?


「テメェが俺を食うだにゃんて100年はえーよ馬鹿野郎。テメェは一緒オナってろこの変態いかれストーカーが!土に還れ!!」


蹲っている凌空に罵声を浴びせ、俺は足早にその場から立ち去った。
あんだけ金玉を強く蹴りあげたんだ。今回のことで懲りたらもっと自重して欲しいところだな。




「ハァハァ、悠くん可愛いよ悠くん!!照れ屋なところも可愛い!ラブ!!愛してる!!!」

無論あの男が自重なんてするはずもなかったが。




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