最悪な状況を頭に浮かべては顔を真っ青にさせていると、トイレのドアが小気味の良い音を立ててゆっくりと開いた。

「!!?」

慌てて猫耳を隠しながらドアの方を振り向くと、目をまん丸にした担任の北川がそこに居た。

「と、とま・・・る・・?」
「チッ、見やがったにゃ・・・」

擦れた声で俺を指差しながら「猫耳」と呟く北川に、俺は荒々しく舌打ちをした。
―見られちまったもんは仕方ねぇ。

腹を括った俺は覆っていた手を外し、苛立ちを隠すことなく北川を睨み付けた。

「・・・見てんじゃねぇよ」
「いや、だってお前・・・何で猫耳なんか付けてんだよ」
「付けてんじゃねぇ、生えてんだよ!」

ギロリ、と北川を睨み付ければ、北川はさらに目を見開いた。そして、

「・・・触ってもいいか?」
「あ?」

見開いていた瞳を期待に濡らし、ジリジリと近付いてくる北川。
まぁ別に断る理由もねぇし、俺は渋々だが北川に耳を傾けた。

「うわ、温かい・・・。マジで生えてんだな」
「だから言っただろ馬鹿。いてっ、あんま引っ張るんじゃねぇぞ糞野郎!」
「悪い悪い。・・・つぅか、耳触られても何も反応しねぇのな」

つまんねぇの、
そう言って唇を尖らせる北川を俺は鼻で笑ってやった。

「ハッ!どこのエロ設定だよ、馬鹿じゃねぇの」

嘲るようにそう言えば、北川はニヤリと意地悪く笑って耳から手を離した。


「じゃあこっちはどうだ」
「にゃっ!?」

不意に尻尾の付け根を強く握られ、ピリリと走る電流に俺は情けない声を上げた。それを見て北川は、愉快そうに唇を歪め・・・

「どうやらお前も、エロ設定だったみてぇだな」
「ひぅっ、ん!」

まるで性器を扱くかのように手を動かす北川に、俺はただ押し寄せる快感に耐えることしかできなかった。
・・・そういえば猫の尻尾の付け根は性感帯だと聞いたことがある。

「ぷるぷる震えてて可愛いな」
「にゃ、あっ!んにぅ・・っ」
「・・・あー、やべぇ。ヤりたくなってきたわ。俺ゴム持ってたか・・・?」

そう言ってゴソゴソとポケットを探り出す北川を見て、俺は絶好のチャンスだと北川の顎にアッパー掌底を食らわした。

「ぐおっ?!」
「はぁ、っは・・・いい加減にしろ、こにょ糞教師!こにょ俺に気やすく触ってんじゃねぇよ、ごみ!害虫!クズ!」

はぁはぁと荒い息を整えながら小学生レベルの罵声を浴びせると、北川は顎を押さえたまま頬を上気させ、熱っぽく呟いた。


「女王様・・・」
「キメェ!!」

咄嗟に鳩尾に膝をめり込ませると、俺は北川を視界に入れることなくトイレから速攻で逃げた。

北川と同じ空気を吸いたくなかったから。




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