あれは俺の人生の中でも、最も不愉快で腹立たしい出来事と言っても過言ではないだろう。

ああ、何で俺があんな目に・・・・!




*




昼飯を食べおわった俺がフラフラと学園内を探索して歩き回っていた所に、不意に擦れた低い声が俺を引き止めた。


「兎丸くん、ちょっといい?」


また親衛隊の奴らか?
そう思って嫌々ながらに振り向くと、そこには白衣を身にまとったオッサンが居た。


「・・・誰っすか」


不信に思いながらもこの学園内に居るということはこの学園の教師なのだろうと判断した俺は、きちんとその先生に体を向け、口を開いた。


「私は中学教師の前田って言うんだ。よろしく」
「はぁ・・・。それで、俺に何かようですか?」


こてりと首を傾げながら訊ねると、前田と言ったその先生は嬉々として俺の手を握り込んだ。
その手には何かカサカサとした物が潜ませていて・・・、


「あ、め・・・?」
「そう、飴だよ!実は私、先日君に助けて貰っているんだよ。ほら、廊下でプリントぶちまけてさぁ、周りの生徒が笑ってる中君だけは助けてくれたじゃん!」
「・・・あー、そんなこともあったような」


なかったような。正直言うとあんまり覚えていないのだが、俺は適当に頷いておいた。
つまり、この飴はそん時の礼ってわけか?


「まぁありがとーございます?」
「いや、私の方こそありがとう!飴ぐらいしかあげれなくてごめんな・・・」


そう言ってシュン、と俯いてしまった先生にニコリと笑いかけると、俺は持っていた飴の包みを開けて口に放り投げた。



「・・・うめぇっすよ」


口いっぱいに広がる飴の甘味に顔を綻ばせながら言うと、先生は情けなく眉を垂らしてニコリと笑った。




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