「言っとくけどにゃあ、したくてしてる訳じゃねぇぞ。つぅかこれ生えてっから」
「・・・はぁ?何だその漫画で有りがちなシチュエーションは」


・・・やっぱそう思うよな。
太雅の言葉に頷きつつも、俺のこれまでの経緯を全部話した。
経緯っつっても、前田から飴貰ったとこから太雅に会うまでのことだけどな。


「・・・そんで誰にも会わねぇように屋上来たら太雅に会ったって訳だ」
「フーン・・・それってよぉ、どっからどう聞いても前田って奴の飴が怪しくねぇか?」


眉間に皺を寄せながら言う太雅に、俺はほんの少しだけ思考を停止させる。
いやいや、そんなまさか。まさかそんな漫画みたいなこと有るわけねぇじゃねぇか。
飴舐めたら猫耳生えた?そんなの現実で有り得られたら困ったもんだぞ。

だいたい、


「あの前田って先生と会ったのほとんど今日が初めてだぜ?」
「そこ何だよな」

俺は前田に恨みを勝った覚えねぇし、つぅかまず接点ねぇし。
あの先生がわざわざ俺を猫耳装備になんかさせるか・・・?


「あー、マジで訳分かんねぇ!」


いくら考えても頭が混乱するばかりで答えが出てこないこの状況に疲れた俺は、盛大なため息を吐きながら屋上のコンクリートに背中を預けた。
ひんやりとしたコンクリートの冷たさが気持ちいい。
青空に流れる雲をぼんやりと眺めていると、不意に視界に影ができた。


「・・・んだよ」


ちらりと視線をやれば、何か企んだように意地の悪い笑みを浮かべる太雅が。
・・・ああ、嫌な予感しかしねぇ。


「漫画とかで猫耳が生えたときってよぉ、大体セックスすれば治るよな」
「エロ漫画の見すぎだろキメェ。心の底から気持ち悪いからマジで死んでくんねぇ?丁度屋上だし」
「死んだらいてぇのも味わえねぇだろーが。いいから俺に任せろ」
「ちょ、あっ・・・ひぁ!」





・・・。
結論から言うと、治りました。
いやマジでありえねぇだろ!何だよこのエロ漫画みたいな展開!ふざけんな!

太雅に犯された後はしっかりボコってやったけどあいつには全部逆効果で、何か余計盛られたから一人でやってろっつって逃げてきたわけだが。

・・・疲れた。


ボーッとしながら廊下を歩いていると、後ろの方から誰かの声が聞こえて振り返る。

「兎丸くーん!!」
「・・・前田センセ」

そこには白衣を身にまとったオッサン、前田が息を荒くして立っていた。
・・・走ってきたんだろうか?


「と、兎丸くん!みみ、耳は!?」
「は?耳?」
「違う!その耳じゃなくて、猫耳のこと!!」

前田の口から飛び出てきたその単語に、ぴくりと肩を揺らす。

猫耳、だと・・・?


「何でテメェがそれを知ってんすか・・・?」
「や、やっぱり生えちゃった!?でも今はないって言うことは・・・いやぁ、若いっていいね!!それがさぁ、俺の実験で研究してた猫耳キャンディと普通の飴間違えて渡しちゃって・・・。ほんとごめんね!でもいい体験だったと思わない!?それで、もしよかったら感想

「・・・・・お仕置き、だな」
「へ?」


きょとん、とした顔で俺を見つめる前田に、俺は満面の笑みを向けた。

「テメェのせいでクラスの連中には変な目で見られるし担任には犯されそうになるしストーカーは相変わらずキメェし仕舞にはケツ痛め付けられるしよぉ・・・!」
「え、えっ!?兎丸くん!?」
「この落とし前、きっちり付けて貰いますからね・・・先生?」


タラリと垂れた前田の汗を指で拭い、そのまま思い切り爪を立てる。


「・・・マジでただじゃ帰さねぇから、覚悟しろよ」




その日中年男性の情けない悲鳴が学園に響き渡ったとかいないとか。

数日間クラスメイトから変な目で見られたのは言うまでもないよな?






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