いーち





トンネルを抜けるとそこは雪国だった。





と言うのは冗談で、学校から家まで帰るまでに通らなければならないトンネルを抜けると、そこは訳の解からない場所でした。

いや、ホントわっけわかんないの!

うす暗い中世ヨーロッパのお城のような部屋(あくまでも俺の想像)。所々に飾られている骸骨。地面にはどっかのRPGで見たことがあるような魔方陣。そして俺を取り囲むコスプレした男たち!



わっけわかんないでしょ!?




呆然と立ち尽くしていると、俺を取り囲んでいた男たちが狂喜乱舞よろしく騒ぎ始めた。




「せ、成功だっ!成功だぁっ!」

「良くぞやってくれた!さすが魔族一の博識!!」

「ふふふっ、余り褒めないで下さいよ〜」

「と、とにかく魔王をっ!」




ワァワァと騒いでいた男たちだったが、一人の男の声でピタリと騒ぐのを止め、一斉に俺の方を振り向いた。




「ひっ!」




突然俺の方を向いたことに驚き、つい情けない声を上げてしまう。そのことに恥ずかしがっていると、タキシードのようなモノに身を包んだ、やけに顔の整った男が俺の目の前に跪き俺の右手を取った。

そしてそのまま右手に唇を寄せる。




な、何この人!キモチワルイ!



ぞわわわん、と立った鳥肌に身を竦めていると、タキシードの男が形のいい唇をうっすらと開いた。




「お待ちしておりました、異世界より来たりし我らが魔王よ」

「・・・は?」




な、何を言ってるんだこのタキシード仮面は!
キモイ!何かわかんないけどとりあえずキモイ!!

そんなことを思っていると、コツリと足音を立ててまた一人、男が近付いてきた。




「魔王よ、こちらへ来たばかりで混乱しているとは思うが、我々の話を聞いて欲しい」

「な、なに・・・」




その男は、真っ赤な髪をツンツンと立てており、何故かお尻に尻尾が生えていた。・・・何かほら、悪魔っていうか・・・バイキンみたいな。ハートみたいな形のっ!

そしてこの男もやたらと美形っていう・・・。



お尻の尻尾にチラチラと目を向けつつも、男に話すように催促すると、男はゆっくりと口を開いた。



「ここはボルテーナという世界のマグネルシアという大陸の端っこの方に位置する、ガルシアという名の場所だ」

「・・・は?」

「つまり、地球の中の日本にある東京、みたいな感じだ」

「はあ・・・」




男の言っている意味が分かるような分らないような・・・、とりあえず曖昧な返事を返す。
すると呆れたように男はため息を吐くと、こう言った。



「簡単に言うと、ここは貴方が居た世界とは違う・・・、要するに異世界というやつだ」

「あー異世界ね・・・。・・・え?異世界?は?」

「我々は貴方に魔王になって貰いたく此方に呼んだのだ」

「まおー?まおう?魔王!?」

「そうだ、魔王だ」




そう言えばさっきから俺のことを魔王魔王と呼んでいた・・・。
え、ちょっと待ってよ!一旦落ち着こう!そんで状況を整理しよう!!


お、俺は佐藤壱夜って名前で平々凡々な高校生で、家に帰る途中のトンネルを抜けたらそこは雪国・・・じゃなくて異世界?で、俺は魔王になるべく此処に呼ばれて・・・





って、整理できるかーい!!!

っていうか普通こういうのって勇者じゃないんかーい!!!









俺の心の叫びは誰にも届くことはく、ただ悲しく響くだけだった。



ああ、俺は一体どうなるの!?





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