まずはおしゃべりから!




「・・・・つまりその近所のお兄さんとやらのせいでお前は美形恐怖症とやらになったわけか」
「う、うん・・・っ」



充分な距離を取ったことで何とか話せるようになった俺は、回らない舌をフル活動させて俺が美形恐怖症になったなれそめ?を話した。

もちろん体は震えるし、視線はつねに斜め45度です。


恐る恐る視線を同室者な向けると、眉間に皺を寄せている彼と目があったので速攻で反らした。

だ、だって怖いんだもん!



「この学園に入学したのって無謀なんじゃねぇの?」
「うん、俺もそう思う・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」


二人の間に奇妙な沈黙が走り、どうしたもんかと頭を悩ませていると、同室者がのそのそと俺に近付いてきた。



「ひぃっ!」


咄嗟に身を縮ませるも同室者は徐々に距離を詰めてきて・・・―、

その距離はもう、手を伸ばせば届きそうなくらい。



「お前はどうしたい」
「っひ、」


ポツリと呟いた声にビクリと肩が跳ねる。下目蓋に張りついた涙は今にも零れそうに膜を張っている。


「お前はこのまま、美形の奴らに怯えて暮らしたいか」


少し擦れ気味の低い声を耳にしながらも、俺は震えて上手くでない声を必死に絞りだした。

―、変わりたい。



「お、れは・・・変わりたいっ」



ぎゅう、と力強く閉じた瞳からは、ぽろぽろと涙が落ちていく。

すると頭のうえにぽふりと何かが乗せられて・・・。



「じゃあ俺が手伝ってやる。俺の名前は木藪龍彦だ、これからよろしくな?」


ニヤリ、と意地悪く笑う木藪くんを視界に入れながら、俺は頭に乗っている木藪くんの手のひらを確認して全身の毛が逆立つのを強く感じた。



「お前、名前なんてーの」
「・・・・・き、」
「き?」

「きゃぁぁああああっ!!!」
「!?・・・ちょ、オイ!」



切り裂くような甲高い悲鳴を上げて、俺の体からふわりと力が抜ける。

白く霞んだ意識の片隅で、木藪くんの焦ったような表情だけが濃く染み付いた。




拝啓、お母様。

どうやら美形恐怖症を克服できるのは、当分先の出来事となりそうです。

追伸
俺の恐怖症克服に手を貸してくれる、心優しい同室者と出会いました。まだまだ恐怖症は治りそうにないけれど、少しずつ進んでいけたらいいな。

 敬具



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