9



ガシャン、と鎖の擦れる音が教室に響く。
手の平から伝わる副会長の吐息と、何が起こったのか判らないとでも言いたげな見開かれた瞳がこの場の空気の異常さを醸し出していた。

俺は副会長の口を手の平で覆ったまま、冷めた瞳で見下ろして言う。


「何、それ。副会長の話聞いてたら何か俺が転校生のこと好きみてぇじゃね?は?マジ有り得ねぇんだけど?」

思っていたよりも低い声が吐息と共に空気を震わせ、副会長の喉がゴクリと上下するのが視界に映る。

「この際だから全部話してやるけどよ、俺が何も喋らず表情も変えなかったのはこの学園の気持ち悪い奴らと関わりたくなかったからだ。俺は誰にも認識されなくてよかったし、周りも俺を空気のように扱う、それでよかったんだよ。なのに」


「アイツが全て、壊した」



副会長の顔にうっすらと恐怖の色が滲み出てきたのに気が付いても、俺は喋るのを止めない。
それどころか俺の口からは次々に言葉が紡ぎだされて、もはや止めることが出来ないかのように。


「アイツが転校して来なければ、俺は一年の頃と変わらず平凡に暮らして行けたのに」
「アイツが気持ち悪い勘違いしなかったら、俺はテメェらに目ェ付けられることもなかったのに」
「アイツがテメェらと出会わなかったら、俺は親衛隊からガキくせぇ虐めを受けなくてもよかったのに」
「アイツが俺に近付く度に、俺の平凡は消え去っていく。全部、アイツが壊した」


――アイツが来なければ。

幾度となく思ったソレは、口に出すたびに強くなっていく。
思いの強さに比例するかのように次第に副会長の口を覆う手の平も強くなっていき、気付けば副会長の顔色はとんでもないことになっていた。


・・・やっべ。



prev next


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -